【2023フロントランナーに聴く】第7回「行政の組織強化と政策形成は両輪」新潟県三条市の上田泰成副市長

三条市の上田泰成副市長(2023年7月撮影)

この4月に新潟県三条市へ着任した上田泰成副市長は、大阪市出身の31歳。大学卒業後は文部科学省に4年、その後は経済産業省へ出向し5年間を経験。文科省では小学校の英語活動の推進などを、経産省では中小企業の知的財産保護や経済団体との調整業務のほか、直近では「コンテンツ産業課」で日本のゲーム・マンガ業界やメタバース関連など、エンタメ・デジタル領域にも関わった。

地方にとっては稀有な視点を持つ若きキャリアに、外部から見た三条の印象や地方行政の課題、新たに始まった市役所の組織強化プロジェクトについて聞いた。

 

霞が関からは見えない市町村の行政

──4月の就任時にお名前を検索した際、経産省でのご活躍を見て「すごい人が来たな」という印象でした。なぜ三条市へ着任することに?

以前から、霞が関で働く以上は自治体での経験をしておきたいと考えていました。なので、当時の人事の部署から「三条市で副市長のポストを募集している」と聞いた時、すぐその場で手を挙げました。霞が関にいると、県とのつながりはあっても、市町村レベルとはやり取りが少なくて実態が見えづらいんです。

また、副市長として仕事をしてみて思ったのは、こちら(地方)からも向こう(霞が関)が見えないということ。そういうところも含めて、今後も地方自治体の行政の現状を目で見て、肌で感じていきたいと思っています。

三条市下田地域で田植えも体験(上田副市長と滝沢亮市長 2023年5月撮影)

──着任から3ヶ月が経ちましたが、実際に住んでみて三条の印象はいかがでしょうか。

「燕三条は日本一社長が多い」とも言われますが、本当に独立した中小企業が多く、「これまで良いものを作りだしてきたんだ」という誇りやアイデンティティが根付いていると思います。そうした意味では出身地の大阪と似ています。ただ、大阪は派手な「ラテン系気質」で、三条は真面目で徹底的に考える職人的な「アングロサクソン系気質」が多い印象です。

また、食文化のプレゼンスは抜群ですね。私も自炊しますが、ただいまーと(市内の農産物直売所)でお米を買って食べると「今まで自分が食べていたものは何だったんだ」と思うほど美味しい。ただ、これを観光戦略に結びつけていく時、単に「食」を前面に押し出しても大都会の陰に埋没してしまう。例えば、三条の自然やアウトドアなどとかけ算して、ニッチな戦略をとっていくことが必要です。

 

──市のSNSを見ていると、この数ヶ月市内の多くの箇所を視察されていますね。印象に残った場所などはありますか?

先日、たからやフルーツを視察した際に各店が商店街の活性化イベントに携わっている様子を見て、「こういうのが地域密着なんだな」と改めて思いました。市民と同じ目線で、高い熱量を多くの方が持っている。また、それぞれの職業の目線から「三条をどうもりあげていくのか」をみなさん考えていることが印象的でした。

また、三条はすでにヴァリューがある土地だと思います。なので、それをいかに外へ発信していくか。市としても、若者層へ向けたSNSと従来の紙媒体などによる発信の総量を考えながらやっていく必要があります。

 

「三条は日本全体の縮図」

──この3か月で感じたことという話題からつづきますが、三条の課題として気づいたことはありますか?

まず、財政難とインフラ整備が脆弱である点が挙げられます。大学や図書館など大型建設事業が連続した影響もありますが、近年は民生費が急増しており、また今後は人口減少に伴う税収減が危惧されます。これについてはほかの地域と同じ課題でもあり、「三条は日本全体の縮図」ともいえます。

インフラについては、道路や公共施設の老朽化が他市町村と比べても目立ちます。先日、三条市立大学のアハメド・シャハリアル学長と意見交換した際、「現代の若者層は就職活動をする際、やりがいや収入はもちろん、職場環境や生活環境を一番重視する」という話がありました。やはり若い世代からは、市の施設や職場となる工場が老朽化している点は気になってしまいます。

また、都市としての発展性がまだ低く、若者の興味関心に刺さるような箱物も少ないですね。「まちやま」には朝から学生が並ぶほどですが、ほかにも商業施設など、色々な若者が魅力を感じることができて、かつ恒常的にユーザーが集える「キラーコンテンツとなるような箱」を造っていくことが必要です。

図書館等複合施設まちやま(2023年7月11日撮影)

──これまでの経験から考える課題についても教えてください。

これからの労働力を担う20歳代、30歳代が市から流出している点が喫緊の課題です。

教育の分野で言うと、特に下田地域では過疎化が進んでいて学校も統廃合の可能性があります。保護者世代でも問題意識は高く、「私たちが卒業した学校なんだから」と反対するのではなく、それも今後の学校の在り方の一つとして認識されていることは感じました。それに向けて、行政や教育委員会は今後寄り添って、検討していかなければいけません。

また、若者の中でもZ世代(1990年代後半から2010年代生まれ)はグローバルな視点で見ても、今後10年間はメインの消費者層になります。国内はもちろん、外需も取っていく必要があり、三条市もZ世代の特質や興味関心を考えて取り入れていかなければいけません。

Z世代は、インターネットやメディアの利用率が高く利用時間も長い。また環境問題や社会課題への関心が高いところも特徴です。マーケティングとしてはもちろん、これからの従業員を囲うという「外と中の両面」で(Z世代を)意識していく必要があり、こうした傾向は三条の企業が採るべき戦略の本質になっていくと思います。

 

地域のこれからをつくるための、行政の組織改革

左から、上田泰成副市長、滝沢亮市長、澤正史経済部部主幹(2023年6月 三条市の報道資料より)

──先月、市役所の組織改革プロジェクト「プロジェクト シンカ」が発表され、上田副市長はそのリーダーに抜擢されました。行政でも新しい人員を獲得していくために、こうした取り組みを推進しているのでしょうか?

そうですね。経済成長率は労働人口と生産性のかけ算ですが、現代は日本全体の労働力が下がってきているため、今後はその中でどう生産性を上げていくのか、という話になっていきます。その中で、各自治体が付加価値や差別化、新しい文化を創造していく必要があります。

ただそういった政策は、役所のワークエンゲージメントや心身の健康、あるいはロイヤリティが担保されて初めて実現できると思います。行政の組織を強くすることと、「これからの三条市をどうするか」という政策形成は両輪です。

まさに先ほどの人材確保の話にもつながります。副市長に就任してから、各部の部長や課長と一対一でミーティングをしてきました。話を聞く中で(組織の体制が)弱ってきている部分を感じますし、実際に若手職員が辞めたり転職したりする例も聞いています。まずは強い組織づくりのプロジェクトを立ち上げて、伴走していく必要があります。

 

──現在進めているのは

現在は、モデルとなる課の選定を進めています。庁内のどの課がDXなどで業務を改善できる余地があるのか、課ならではのミッションは何か、など今一番改善の効果が出やすい部署を探り、検討している現状です。まずモデル課を選び、その組織風土を全庁へ広げて業務プロセスを改善していく形になります。

着任した当時は、あらゆる方面から「こんなに若くて大丈夫か」と言われました。年齢はウィークポイントではありますが、若い視点ならではの提言ができるというストロングポイントでもあると思っています。7月から「プロジェクト シンカ」が本格的に稼働します。こうした組織づくりやまちづくりがこれから加速度的に進んでいくので、これまでの知見と若い感情を活かしつつ、三条に尽くして参ります。

(聞き手 鈴木琢真)

 

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