【2023フロントランナーに聴く】「当社には営業マンはおりません」taneCREATIVEの榎崇斗代表取締役が語る戦略とは?
taneCREATIVE(タネクリエイティブ)株式会社は新潟県佐渡市に拠点を置き、Web制作およびセキュリティ保守の分野で活動する企業である。同社の榎崇斗(たかと)代表取締役(48歳)は、佐渡市の県立高校を卒業後、当時佐渡市に弁護士が存在しないことを知り、弁護士を目指す道を志した。
法学部の受験を決意し、東京の私大も受かったが、合格した中で最も司法試験合格者の多かった関西大学に進学。当時は旧司法試験制度の時代であり、短答式試験に複数回合格する実力を持ったが、新司法試験の導入にあたり、関西学院大学のロースクールに進んだ末に受験本番に失敗したという経歴を持つ。
この挫折を経て、榎代表は新たな方向性を模索。東京のIT企業での職に就き、多忙な日々の中でITの知識やノウハウを習得した。その後、コールセンター企業で取締役を経験したが、日々の時間の無さ対して疑問を感じ、自らのライフスタイルや生き方を再考する時期が訪れた。
生まれ故郷である佐渡市に目を向けた榎代表は、地元に貢献し、新たな働く場所を創りたいという思いにたどり着く。2012年にWeb制作会社のtaneCREATIVEを創業。同社の特徴としてはIT系ということもあるが、特に売上の多くを東京の企業が占めていることが挙げられるだろう。これは、榎代表の東京時代の人脈が生きているのはもちろんのこと、「佐渡という離島で外貨を稼ぐ」という榎代表の強い思いが反映されている。
しかも、日本を代表するような上場大手との直接取引もある。どうやってそういった顧客を獲得するのだろうか。しかし、榎社長は「当社には営業マンはおりません」と平然として語る。特に昨今ではセキュリティ保守の分野で評価されているとのことで、そういったニーズを一つ一つ拾っていっているという。
一方、佐渡島の人口は約5万人だが、全国的な少子高齢化の波に洩れず、人口減少が進んでいる。榎代表はこの現状に対して、「若者が戻る佐渡へしたい」と考えており、「そのためには、働く場所がなければならない」と説く。榎代表は2015年に経営者仲間で作ったボランティア組織「NEXT佐渡」を設立し、佐渡市への企業誘致などに取り組んでいる。
「子供が年間200人程度しか生まれない佐渡市では、王道の起業家育成にリソースを割く余力がないと考えています。まずは1社でも良い会社を誘致するところから」と佐渡の地域振興の難しさや課題について語った。
総じて、榎代表の個人的な経験や志向が、taneCREATIVEのビジョンと事業展開に影響を与えているように感じられる。同社の活動には単なるビジネスだけでなく、地域との連携や人材育成、クリエイティブなサービスの創造など、多岐にわたる要素が影響してくるだろう。
(文・梅川康輝)
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