【人気記事】書店員が選ぶ「今月のおすすめ本」2023年6月(提供 ジュンク堂書店新潟店)(再掲載)

2023年春から夏にかけての本紙から好評だった記事をピックアップして、お盆休み期間に再掲載いたします。(編集部)

掲載日 2023年6月16日

 

ジュンク堂書店新潟店(新潟市中央区)の書店員が選ぶ「今月のおすすめ本」。書店員の眼鏡に映った「今読んで欲しい本」を、書店員の生の声でお届けします。

書店員が選ぶ「今月のおすすめ本」2023年6月(提供 ジュンク堂書店新潟店)

ノンフィクションと言うと、社会の闇や悪を追及する恐ろしいルポルタージュやドキュメンタリーを想像してしまいがちですが、実は知的好奇心をくすぐられるようなわくわくするものも沢山あります。今回はそんなノンフィクションを3冊ご紹介します。(ジュンク堂書店新潟店 店長・安達麻美子)

 

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(集英社)川内有緒 税込2,310円

目の見えない白鳥さんとアートを見にいく(集英社)川内有緒 税込2,310円

ノンフィクション作家の有緒さんが、生まれつき極度の弱視である白鳥さんと美術館に赴き、見ている作品をひたすら説明していきます。説明すると言っても作品解説ではなく、どのくらいの大きさで、どんな色合いでどういうものが描かれているか、どんな雰囲気なのかを説明(アテンド)していきます。作品や画家に関する知識はむしろ邪っているのを白鳥さんは楽しんでいる様子。印象的なのは、白鳥さんに説明することで、目の解像度が上がると言うところでした。

この文章を書いている今も実感するのですが、確かに本を読んで“とても面白かった!”と思ったはずなのに、どこがどう素晴らしいと思ったのかをうまく人に勧めることが出来ず、何ならあらすじさえ上手く説明出来ず愕然とすることがよくあります。
アウトプットを意識することで、自身の感覚を少しずつ拾い集め、より理解につながっていく感覚、個人的にすごく腑に落ちます。

白鳥さんたちは十日町の大地の芸術祭も訪れています。実際に彼らがどんなものを見聞き体験したのか、ぜひ本書をご覧になってみてください。

白鳥さんの、聴覚情報だけでなく美術館の空気や雰囲気まるごと体感することで“自分が今ここに在る”と認識する姿は、我々にとっても新たな美術館体験をもたらしてくれそうです。

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どうしてこうなっちゃったか(幻冬舎)藤倉大 税込2,090円

どうしてこうなっちゃったか(幻冬舎)藤倉大 税込2,090円

次にご紹介したいのは、芸術繋がりの本書。クラシック音楽に“新曲”は無いの?と思ったことはありませんか?本書は世界で最も演奏機会が多いと言われている現代音楽の作曲家・藤倉大の自伝的エッセイです。

私は恩田陸原作の映画「蜜蜂と遠雷」で演奏された、ピアノコンクールの課題曲「春と修羅」でその存在を知りました。「あめゆじゅとてちてけんじや」と本当に聞こえてくる様な美しいメロディが印象的で、こんな天からこぼれ落ちてくるようなメロディを生み出す人がどんな繊細な人かと手に取ったら、何とまぁ驚愕且つ抱腹絶倒でした。

どこまでも自然体な人柄が憎らしい程に魅力的。どんどんと人の輪が広がっていき、次々と連鎖していく様子は、まるで人生そのものがオーケストラの様。故人の坂本龍一さんとの交流も記されています。お仕事のギャラや受注制作まで、知られざる作曲家の生態(の一例)を垣間見ることが出来るのもお楽しみポイント。引力を感じる程にぐいぐいと人を巻き込んで新しいことに挑戦していく姿は爽快です。興味を持った方はぜひ彼の曲も聞いてみてください。

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紙つなげ!(ハヤカワ書房)佐々涼子 税込814円

紙つなげ!(ハヤカワ書房)佐々涼子 税込814円

3.11東日本大震災で、多くの工場が被災した為に供給力が減退し、品薄になったものが沢山あります。その中には、“紙”もありました。実はあの震災当時、日本全国で紙が不足し、出版業界は危機的状況に陥っていました。

日本の出版用紙の約4割を生産する日本製紙の基幹工場が石巻にあり、津波で壊滅的な被害を受けました。どこから手を付けていいか分からないほど絶望的な状況の中、社の命運をかけた復興という決断は、どれほど恐ろしく、また多くの人の励みになったことでしょう。

電気設備、ボイラー、タービン等々、それぞれの部署がタスキをつなぐ様に復旧に全力を尽くし、驚くべきことにわずか半年で一つのマシンを稼働させました。

元々紙書籍派の方はもちろん、普段は電子書籍派の方も、ぜひこの本は紙で手に取って読んでいただきたいです。今、私たちがアンカーとしてタスキを受け取りこの本を手に取ることが出来るのは、数多くの奇跡と職人魂のおかげに他なりません。

極限まで薄くしつつ耐久性に優れた辞書の紙、子どもの手を傷つけない様に作られる幼年コミック用の紙はふわっと軽く厚手のものに。実は文庫も出版社によって微妙な紙質や光沢・色など異なります。そんな職人達のこだわりもぜひ堪能して下さい。

本はやっぱりめくらなくちゃ!

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