【人気記事】【2023フロントランナーに聴く】「もう一度日本経済は復活できる」株式会社新潟クボタ吉田至夫代表取締役社長(再掲載)
2023年春から夏にかけての本紙から好評だった記事をピックアップして、お盆休み期間に再掲載いたします。(編集部)
早稲田政経から日経新聞へ
株式会社新潟クボタの吉田至夫(のりお)代表取締役社長は実は元ブンヤである。古くは、故筑紫哲也氏や久米宏氏などの有名人などを輩出したマスコミの名門、早稲田政経の出身。実際、吉田社長も「政経ではまわりはみんなマスコミ志望だった」と笑うくらい、卒業後はみなマスコミへ進んだ。その中でも、ジャーナリスト志望だった吉田社長は、全国5大紙の一角を占める日本経済新聞へ入社。その後、家業を継ぐために30歳で新潟へUターンし、新潟クボタへ入社した。その後、先代から継承し、代表取締役に就任した。そんな吉田社長にバリバリの日経新聞記者時代の思い出と、現在の本業である新潟の農業に対する情熱やスマート農業などについて伺った。
――日経新聞時代の思い出をお聞かせください。
最初の2年半が東京勤務で当時の通産省の虎ノ門記者クラブで、その後、4年間は名古屋勤務。あと最後1年が東京本社の産業部でした。名古屋ではトヨタ担当や県庁担当もした。上場企業が多く証券会社も多いので、「会社情報」という「会社四季報」(東洋経済新報社)に対抗して出している雑誌の取材もしました。
40社ぐらい担当しました。年4回出るので、ひと回り取材終わると、次また質問に取材しなきゃいけないんです。名古屋の最後の2年間がトヨタ担当でした。それから東京に戻って自動車業界担当で日産やホンダを担当して、30歳で辞めて帰ってきました。
――記者時代にスクープはありましたか?
一応、新人の時に社長賞に引っかかりましたが、もらえませんでした。北朝鮮の貿易代金不払い遅延問題というのが起きていて、北朝鮮のスパイみたいな人のインタビュー記事を書いたりしました。
通産省の防衛局から現場の方に入って取材しました。それから、私が抜いたんではないけども、自動車担当グループとして、佐藤正明さんという当時自動車の花形記者がいて、今でも評論家にやっておられるんですが、彼がトヨタGM合弁のニュースをスクープしました。我々自動車グループ全部で社長賞をもらったので、その時自動車グループにいたから末端に名前が入っているかもしれない。日経でも10年にひとつあるかないかのスクープですので。最後は官房長官にコンファーム(裏取り)をしたと思います。
「農業は日本の課題の先頭を走っている」
――一方で、現在の本業である農業に対してはどうお考えですか?
農業はやはり一次産業と言われるだけあって、日本の社会や経済の抱える課題のある意味で先端を行くところです。日本の社会そのものが人口減少というのが一番大きな課題で、あとは高齢化ですね。生まれる赤ちゃんが少なくなって年寄りばかりになって、なおかつ年寄りもどんどん死ぬものだから、人口がどんどん減ってしまう。それにどう適用するのかといのがこれからの最も大きな問題です。全ての問題がやっぱり人口減少に起因しているわけです。
その課題でまずその先頭を走っているのが農業ですね。やはり1軒当たりの規模を拡大する上で無人にするとか、いろんなITを使ったスマート農業なども導入しないといけないというのが今の方向性です。
――スマート農業についてお聞かせください。
スマート農業の中で注目されているのが、無人トラクターですね。自動車業界ではレベル1、レベル2、レベル3とか言っていますが、レベル1は、人が乗りながら行うものです。機能はかなり自動化され、自動車よりかなり進んでいます。このレベルはもう標準装備だったんです。クボタの農機具の場合は手を放しても、まっすぐ進む。むしろ自動車より遥かに進んでいます。
レベル2は有人または人が監視して、障害物があったらクルッと回ってできる。自動車はまだ無理ですよね。
レベル3は、遠隔操作で、例えば寝ている間に勝手にシャッターが開いてトラクターがトコトコと11時ごろ出かけてですね、何キロ離れた田んぼまで行って、予定したところを全部朝までに打ち終わって、トコトコと綺麗に収まっている。これがレベル3です。それもできているんです。
ただ道路交通法とか、勝手に動く許可が下りないだけで、機能的にはできるんです。だから北海道大学の研究所ではもう何年も前からそれの試験もしています。ただ、そこに人がいたとか、途中で何か道路を渡ったりするわけで、そのときに事故を起こしたらどうなるかとか、法的な問題が解決していないので、実用化されないんけれども、技術的には確立された技術です。
――ところで、御社の女性の管理職比率はいかがでしょうか。
無理やり上げているせいもありますが、部長や課長はいますね。定年退職しましたが、営業所長もいました。何とか私の目の黒いうちに、女性の役員を出したいなと思っていますけどね。
女性の力を発揮できるようなシステムを作った会社が伸びるのかなと思いますね。現実、新卒の採用を見ると、頭が良くて、やる気があって、元気なのは女の子ですよね。女性を上手に現場でガンガン行けるように、働けるシステムを作り上げたらすごいだろうなと思いますよ。
「日本経済はダイナミックにチェンジしている」
――現在の日本経済をどう分析しますか。
富士フィルムのように、大企業は名前が変わらなくても、中身が変わっている。かつてのシャープもいない。株価トップはキーエンスとかという状況になっている。半導体では完璧に負けたけど、でも半導体を作る機械は全部日本製。それを検査する機械も全部日本製です。日本経済はダイナミックにチェンジしていって、私は十分令和に復活すると思う。
そのためには経営者はもっと自信を持たなきゃいけないと思う。私たちがまるで駄目にしたんだけど、私たちが平成のうちにかなりイメージチェンジしておいたと。駄目なものを潰して、売り上げが伸びなかったけど、「中身はかなり構造転換しておいたよ」というのが平成だった。だから、もう一度日本経済は復活できるような気がするんですけど、これはやっぱり次の令和の経営者たちです。
(文・撮影 梅川康輝)