【記者コラム】にいがた経済新聞編集部発「今週の編集後記」
編集後記
半藤さん、もう「戦後」はとうに終わっています。これから我々の世代がしていかなければならないこと
喉元過ぎれば熱さを忘れる。国際的・国内的にも多大な犠牲を与えた太平洋戦争が終結してこの夏で、ちょうど78年目になる。月並みな言い方だが、「戦争体験のある世代」は年々減少し、「戦争を知らない世代」の割合が、主力世代を占める時代となった。かくいう記者も、直接的な戦争の体験をしていない。物心ついてから、国内経済の冷え込みは、肌感覚で実感しているものの、空襲の体験や、兵隊として他国の人々と殺し合った記憶もない。
否待て、我々は本当に「戦争を知らない世代」なのだろうか。世界に目を向ければ、アフガニスタン侵攻、湾岸戦争、コソボ紛争、アメリカ自爆911のテロ、イラク戦争、ガザ侵攻、そして今回のロシア軍によるウクライナ侵攻など、記者が生きている時代だけでも、世界中では様々な紛争や戦争が発生している。その度に、家を焼かれ、家族を殺され、祖国を追われた人々がいる。「憎しみ」は、そのまま別の「憎しみ」をうみ、やがてそれは積もり積もって国家間、民族間の対立から、個人同士の争いへと発展する。そして、人々はやがて、恨み合い、憎み合い、殺し合う。
これらの争いごとは、外国の出来事で、我々日本人にとって無関係なことなどと、断言することは、決してできない。どこかの国が戦争をするたびに物価があがり、税金があがり、一方の国を支援することによって、他国から報復されるリスクもある。すでに、我々の生活に影響を与え、生活に支障がでている点から考えても、これら一連の”外国の戦争”は、決して、我々にとって、無関係のこととは言えないだろう。
ましてや、過去3年以上人類がすっかり苦しめられている新型コロナウィルスだって、考え方によっては戦争と同義に捉えられることもできるだろう。人々はウィルスに大いに苦しめられ、命を奪われ、生活も、制限されてきた。
そういう意味では、我々はまさに”戦争”を”体験”している。ただし、従来の体験の仕方と些か異なったかたちではあるけれども。そう考えると、我々は”戦争を知らない世代”なのではなく、”戦争を見てみぬふりしている世代” ”戦争に気がつかない振りをしている世代” ”戦争の実態から目を背けている世代”といえなくはないだろうか。
このほど、新潟日報社から、『半藤一利の遺言 戦争と平和、そして「わが越後」』と題した一冊が上梓された。これは、2021年1月に亡くなった、新潟県長岡市にも縁のある半藤一利氏の生前のインタビュー内容を、同社の小原広紀氏が、まとめたものである。半藤氏は、東京空襲を体験後、新潟県長岡市に疎開したが、疎開先でも長岡空襲を体験している。半藤史観の総決算とでもいえるような大著『昭和史』は、まさにその戦争体験が原風景となっている。長岡高校の卒業生でもある半藤氏は、大先輩でもある山本五十六を生涯尊敬し、平和主義者としての山本五十六像を広めた人物の一人でもある。その山本五十六が最後に搭乗していた機体の一部を、長岡の人たちが里帰りさせた様子については、本紙8月15日の特集記事で取り上げている。
日本人によるウクライナの人々への支援や受け入れは、引き続き行われている。確かに、太平洋戦争を直接体験した日本人の人口は減少している。だが、我々の周りには今現在も、困難な状態が続いている祖国ウクライナから避難してきた人々が身近にいる。こうした戦争を直接知る人々の話から、戦争の悲惨さ、愚かさ、残酷さを直接聞き、平和の大切さを改めて学ぶことができるだろう。大切なことは「その後にどう動くか」である。
昨年5月に新潟県小千谷市に避難をしたウクライナからの夫婦イリナ・シェフチェンコさん(39)さんとムタル・サリフさん(37)は、8月19日、新潟県長岡市で講演を行った。シェフチェンコさんは現在、新潟県小千谷市の仲間と「チーム・イリナ」という団体をたちあげ、活動を行っている。その活動で得た収益を、ウクライナの児童養護施設で生活する子どもたちに送っているという。その姿は、記者にとって、かつての小千谷で、戊辰戦争後に親を失った子どもたちに教育を施し、自立を支援しようとした山本比呂伎や山田愛之助といった人物たちの姿と重なって見えるのである。
日本の「戦後」は、もうとっくに終わってしまっている。そして、今後我々は世界規模で「戦後」を考えていかなければならない。そのために我々の世代が今できることはなんだろうか。小原氏の著書が伝える半藤氏の発言を通して、ふとそんなことが頭をよぎった。
(編集部・Y)
今週の主なニュース(8月21日〜8月27日)
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