【にい経編集部発】記者コラム&今週の主なニュース

編集後記

見せる工場は魅せる

「燕三条 工場の祭典」が10月26~29日の4日間開催される。金属加工の産地である燕市と三条市の「KOUBA(工場、耕場、購場)」を地域内外に公開する、いわば工場見学を地域ごと行う恒例イベントだ。

2013年の第1回開催でオープンファクトリーに参加したのは54カ所、来場者は4日間の延べで約1万人だったが、2019年には133カ所の参加、来場者は約5万6000人にのぼるほど定着し、また拡散していった。

「工場の祭典」が生まれたきっかけに、2011年頃スノーピーク(三条市)や諏訪田製作所(三条市)などがオープンファクトリーを相次いでオープンさせたムーブメントがあった。子供たちや後継者にモノづくりや地域の魅力を伝えることや、人に見せる、伝えることで社員教育につながることなど、オープンファクトリーの意義が挙げられる。しかし最も大きい効用は、プロダクトが生み出される過程で、こんな卓越した技術が駆使されて出来上がるという、その現場を見せることが、すなわちプロダクトの付加価値になるという点ではないか。見せる=魅せる=ブランディング。ここまで工場の祭典を見てきて、これは強く感じる。

以前、槌起銅器の名工と知られる玉川堂の玉川基行社長に取材の機会を得た。玉川堂は当時、東京銀座、青山に直営店を開き(青山店は2019年閉店)、海外にも直営店を出そうかというグローバル企業として、燕から外に飛び出していた。それでも玉川社長は「世界各国から、わざわざ玉川堂燕本店にお越しいただいて、ここでお買い上げいただく流れを構築するのが究極の理想」とこだわりを話す。その言葉には「地場産業は観光資源になる」という確信が見て取れた。

フランスのボルドー地区などが代表的だが、欧州には複数のワイナリーをめぐる「ワインツーリズム」の文化が定着している。「観光」とはその土地の「光を観に行く」ことで、光り輝く地場産業は資源に他ならない。その意味でオープンファクトリーはもっと外に開かれる余地があるのではないか。

先日、やはり燕市、包丁の名工・藤次郎のオープンファクトリーを訪ねた。国内の一流料理人の多くに愛用されるだけでなく、欧米のトップシェフたちにも厚い支持を受ける「業物(わざもの)」だ。

最初にギャラリー兼ショップを拝見したが、モノが良いのは素人目にもわかる。ただし、普段ホームセンターで買った1500円程度の「量産型包丁」に慣らされている身としては「家庭用の包丁に1万1000円は出せないかな」とも感じた。

しかし工場見学を周り、職人の卓越した技術に触れた後でもう一度ギャラリーに寄ると1本1万1000円は格安に思えるから不思議だ。

工場見学1周30分程度で完成する「無敵のブランディング」がそこに存在した。

(編集部  伊藤 直樹)

 

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