【特集】就業時間内に!?福利厚生で整体施術 社員の健康と会社の生産性が向上する事実
時代の変化とともに求められる会社の在り方、目指す姿にも変化が生まれている。今の時代、働きやすい職場環境の整備は大きなテーマのひとつだ。
働く上で仕事や生活をフォローしてくれる福利厚生サービスにはさまざまな分野があるが、中でも近年脚光を浴びているのが、健康に関するコンテンツだ。健康をケアする福利厚生として、スポーツジムの利用補助や食事の補助、人間ドッグなどの医療費補助やオンラインのメンタルヘルスケアサービスなどその内容は多様化している。
健康ケアの福利厚生コンテンツにおいて、近年新潟で一際目を引くサービスを提供しているのがりそうの合同会社(新潟市中央区)が実施している「企業向け出張型整体」だ。
同社と契約すると月に一回、オフィスで専門的な技術と知識を持った「整体チームSwimmy」の整体を受けることができる。この整体は、会社の補助で就業時間内に施術を受けられるところが大きなポイントであり、基本は1回60分だが、忙しい人のために同レベルの内容を45分で受けられるコースも用意されている。
広告制作やコンサルティング事業を展開するブランディングファームの株式会社アドハウスパブリック(新潟市中央区)では、2021年11月から月に一回、同社のメニューを導入しており、希望する社員は費用の一部を会社負担でサービスを受けている。
グラフィックデザインやWebデザインの制作など、アドハウスパブリックの業務はデスクワークが中心。これまでスタッフは長時間座りっぱなしで作業することが常態化しており、体を痛めている社員も多かった。
「長時間座り続けて辛い思いをしながら仕事をしていたら、いいものも作れませんよね。しっかりとしたアウトプットをして、お客さまに良いアイディアを提案するために体を整えることは、経営者として健康経営のテーマだと思っています」と話すのは、同社の関本大輔代表取締役。
体に不調を抱えている人にとって、改善したいが終業後や休日など限られたプライベートな時間をメンテナンスで終わらせてしまうことに抵抗がある人もいるだろう。また、「いつものこと」「職業病だからしょうがない」と言って諦めてそのままにしてしまう場合もある。
それが就業時間内に整体の施術を受けられるのであれば、社員としては大きなメリットにつながる。一方で、1人約1時間という施術を受けている時間は、本来仕事が進むはずの時間なので、会社にとってはリスクのようにも捉えられるが、「逆ですね」と関本社長。
「社員は一緒に仕事をするというよりも、お互いがいなくなると困る、人生を一緒に歩んでいるチームメンバーだと思っています。だからこそ時間より体を大事にしようという思いがあるし、痛みをそのままにしたり、医者に通うようになってしまうことの方がリスクです。それに、痛くてもなかなかみんな自発的に治療に行かないんですよね」
同社では毎月継続して施術を受けてきた結果、腰の痛みが取れたり体が楽になったりと効果を実感する社員が増え、現在では施術を受ける人が減っているそう。
「実際、導入前と後で体の不調を訴える人は激減しました。それと同時にみんなの集中力が上がって生産性が向上していることを実感しています。もちろん会社で取り入れている他の取り組みとの相乗効果もあると思いますが、素晴らしい効果だと思います」(関本社長)
若い頃はハードワークが気にならなかった人でも、加齢や体の不調などで徐々に「頑張りたくても頑張れない!」というジレンマを感じる場面は年々増えてくる。そういった時に会社がサポートしてくれることは働く上で心強く、モチベーションにもつながる。
本サービスを提供しているりそうの合同会社の後藤純子共同代表は「今まで整体師として活動する中で、体を壊して本当に仕事ができない状態になってから施術を受けにくるビジネスマンの方をたくさん見てきました。そんなコンディションまでなってしまうとで、きることは限られてしまいます。一方でもう少し早い段階でケアできれば、いい状態を継続することができます。そこが働くための人の整体を意識し始めたきっかけでした」と語る。
整体チームswimmyは整体歴22年で保健師と看護師の免許も持つ後藤氏を中心に、個人事業主の整体師5人で構成されており、毎月1日かけて勉強会を開催するなど、継続的に技術の向上につとめている。
企業向け出張型整体のクライアントには工場もある。職人の仕事は長時間高精度な技術を求められる内容であり、コンマ数ミリ違うだけで致命的。職人のコンディションは会社の利益に直結するため、整体を導入したことでこちらも生産性も上がったそうだ。
「施術で体の状態が改善されることはもちろんですが、定期的に整体師が顔を出すことで、一人ひとりが健康への意識を持ち続けることにもつながっているようなので、“なりたい体”を継続的に支援できるのかなと思います。また、会社が自分の気持ちいい体と気持ちいい気分をサポートしてくれると、会社に必要とされている実感が湧くと思います」(後藤共同代表)
そんなりそうの合同会社は、整体の施術の他に6月から新たに企業向けのセミナーを立ち上げた。企業の特徴や要望に合わせたオーダーメイドの内容を1回90~120分で実施。眼精疲労や腰への負担など、不調の原因やメカニズムを知ることができ、社員は自分にとって良い環境を作るための基礎知識が身につく。学べる改善方法も身近なものの調整で対応できるなど、ハードルが低く取り入れやすい。
アドハウスパブリックでも既に一度開催され、実際に作業スペースにも入り、モニターの位置や机の高さ、人それぞれの姿勢の取り方などを、体の仕組みと照らし合わせながらアドバイスを受けたそう。「そこで基礎知識を教えてもらえることで、その後みんなの中で気をつける意識が働き始めました。机の高さはもちろん、日差しも影響あるなど勉強になりました」(関本代表取締役)
整体の効果というと物理的な体の改善に目が行きがちだが、生産性の向上など、現場では業務への好循環が生まれている企業向け出張型整体。さらにその影響は、社員一人ひとりのマインドや会社の経営そのものにも大きな意味をなしていっているようだ。
「会社の存続や成長を考えたときに、社員の体もマインドも整った状態で“さらなる良い状態”を複合的に考えて、次のレベルを目指していきたいですね。体の不調を抱えていると、どうしてもネガティブになってしまいがちです。健康経営はすごく大事で、社員の健康を大切にすることは、企業として『同じところを目指して一緒に運営している』気持ちも伝わるし、そうすると新しいチャレンジにもみんな建設的な姿勢になります。お互いを認め合って、助け合って、会社に勤める仲間じゃなくて一緒に働く仲間という気持ちを共有できる、そんなウェルビーイングな会社が増えるべきだと思っています」(関本代表取締役)
後藤氏も「『社員の健康に寄与する』という考え方の企業が増えていったらいいなと思っています。『新潟ってほとんどの会社が福利厚生で整体受けられるらしいよ、整体県だね』と言われるくらいになって、実際に健康寿命が伸びたりしたら地域としても素敵なことじゃないですか」と、企業への健康意識の高まりに期待を寄せる。
福利厚生は企業の魅力を高めるポイントの一つではあるが、「働き方」を超えて個人の健康に目を向け、特に就業時間内でのサービス利用にまで踏み込んだコンテンツは、まだまだ多いとは言えないだろう。
労働環境の魅力は採用活動や早期退職の抑制にもつながる。今後の新潟の企業が、それぞれ会社の課題や特性に目を向け、どのような労働環境を整備していくのか注目していきたい。
<取材協力>
株式会社アドハウスパブリック:https://adhpublic.com/
りそうの合同会社:https://seitai-swimmy.info/
(文・丸山智子)