【独自】弥彦菊まつり「5年後には開催できないかも」、高齢化する菊出展者 弥彦村や彌彦神社では講習会の取り組みも

掲載日 2023年11月3日
最終更新 2023年11月12日

今週の人気記事などを日曜日に再掲載いたします。(編集部)


「弥彦菊まつり」参道を彩る大菊(2023年11月1日撮影)

「もう5年もすれば、菊まつりそのものが成り立たないんじゃないかなぁ」──「弥彦菊まつり」の初日、新潟県菊花連盟会員の渡邉元さんは呟いた。彌彦神社(新潟県弥彦村)で毎年11月に開催される「菊まつり」。紅葉の名所・弥彦公園と合わせて約45万人(2022年 11月の1カ月間)が訪れる一大イベントだが、菊の出展者は減る一方だ。

「やっているのは高齢者ばかりだから。私の所属する地域(県菊花連盟は地域ごとに支部が存在する)も、一番若い人で80代。十数人いるメンバーのうち10人はもうまともに菊をいじれない。みんな手が震えるだとか、鉢を棚から下ろせないとか……」(渡邉さん)。高齢化が進み、平成のはじめには1,000人を超えた県菊花連盟の会員も今では150人以下。新潟のみならず、全国でもこの傾向にある。

その影響はすでに「菊まつり」に出ている。渡邉さんは盆栽の展示棚を指して言う。「鉢同士のあいだが広いでしょ。昔は盆栽の棚なんて、もっとびっしりと作品が並んでたんだよ」。2023年は猛暑で開花が遅れた影響もあり、例年より出展は少なく2,000鉢ほど。日本最大規模の展示に変わりはないが、かつては現在を遥かに超える6,000鉢もの菊が並んだという。

盆栽の棚、今年は猛暑で育成が困難だったことも出展数が減った要因の一つ

盆栽のエリアでは、小菊盆栽の作り方の紹介や苗の販売も

かつては愛好家も多く、日本各地で盛んに栽培された菊。しかし時代の移り変わりと趣味の多様化で、若年層の新規参入は少ない。園芸の分野で見ても、現代の住宅に合う花々や省スペースな多肉植物、あるいは家庭菜園などのほうが人気で、菊などはどうも「玄人好み」あるいは「難しそう」な印象が強い。

育成の手間が大きなハードルとなっているのは事実だ。「菊まつり」は見応えのある展示だが、それゆえに審査は厳しい。入賞を目指す場合は、一日たりとて水切れさせることはできず、愛好家の中には専用のビニールハウスで温度管理をする人も居るという。自然と、定年退職後など時間に余裕のある世代が中心となる。

例年多くの人が訪れる「菊まつり」、イベントが小規模化し観光客が減るのは自治体にとっても痛手だ

地元小学校での菊の育成も行っている

当然、関連の団体や自治体も手をこまねいているだけではない。彌彦神社と弥彦村では近年それぞれ、菊づくりの講習会を定期的に開催している。弥彦村の講習会は2017年度から開始しており、今年度の登録者は20人ほど。近隣だけでなく、関川村や長岡市からも受講者が来ているという。「菊まつり」に出展した受講者はまだいないが、数年間受講しそのレベルにまで達する人も出始めているという。

また、村と観光協会の共同でハウスを所有。年に何度か通って菊の育成を体験できる取り組みも行っている(現在は既存の登録者のみを対象として実施)。こちらは、「菊まつり」に出展スペースが用意されている。弥彦村産業部観光商工課の担当者は「菊づくりは確かに手間がかかるが、審査を考えず花を咲かせるのであればほかの花卉とあまり難易度は変わらない。競技や入賞を考えず、まずは育ててみてもらえたら」と話す。

菊花連盟の平均年齢が80歳代へ達しようとする今が「菊まつり」の岐路である。担い手の減少した文化を「時代遅れ」と切り捨てるのは容易い。しかし、一度途絶えた文化を伝えるのは難しく、ノウハウを復元するのはさらに困難を極める。止めるよりも先に考えるべきは、参入しやすい仕組みづくりや文化に触れる機会、出展できる機会などの創出だ。

「菊まつり」の期間中、彌彦神社境内では菊の苗が販売されている。完成品を見るだけでなく、自ら文化を育ててみるのはいかがだろうか。

 

【グーグルマップ 彌彦神社】

 

(文・撮影 鈴木琢真)

 

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