【独自】ファンサイト「おこせん」で結ぶ顧客との新しい絆、大手米菓メーカー岩塚製菓(新潟県長岡市)の挑戦
掲載日 2023年11月8日
最終更新 2023年11月12日
今週の人気記事などを日曜日に再掲載いたします。(編集部)
近年、企業と顧客とのコミュニケーションの手段として、ファンサイトが注目を集めている。米菓メーカー大手の岩塚製菓株式会社(新潟県長岡市)が運営するファンサイト「おこせん」もその一例。楽しく、魅力的なコンテンツでファンを引きつけ、コミュニティを形成している。
ファンサイト「おこせん」の楽しみ方と、ファンとどのように交流しているのか。運営に携わっている岩塚製菓ソーシャルコミュニケーション室の太田鮎美氏と、ファンサイト「おこせん」の事務局を務めている川村大輔氏に話を聞いた。
「ベビーせんべい」をテーマとしたファンサイト
岩塚製菓の商品の中で最も歴史のある商品「おこさませんべい」。50年以上の歴史を持つ同商品を含む「ベビーせんべい」シリーズ(全3商品)は、長い歴史を有しながらも、毎年その顧客層が刷新される特性を持っている。
赤ちゃんが成長するにつれて食べることができるせんべいの種類が変化し、新たな親子のペアが製品を手に取ることとなる。岩塚製菓はそのような背景から、顧客との強固なコミュニケーションを築くため、「ベビーせんべい」をテーマとしたファンサイト「おこせん」を2017年にスタートさせた。
このファンサイトの主な目的は、製品を単に紹介することではなく、ファン同士が繋がり、共有する場を提供することにある。
太田氏は、「おいしいというメッセージを企業から直接発信するのではなく、ファン同士で製品の魅力を語り合ってもらいたい」と話す。
パパママの子育てを応援する充実のコンテンツ
ファンサイト「おこせん」では、親子の生活をサポートする多彩なコンテンツが用意されている。育児中の親を応援する「育休復帰応援」企画では、メルマガ会員を対象に岩塚製菓のおせんべいがプレゼントされ、参加者の感想が共有されている。
また、「子どもの食育」や「寝かしつけ」、「発達と心理」に関する専門家のアドバイスが提供され、育児の悩みを解決する手助けとなっている。さらに「ベビーせんべい」のアレンジレシピや、読者が投稿できるフォトギャラリーを楽しむこともでき、親子での楽しい時間を提供している。
メルマガ会員にはさらなる特典があり、ファンミーティングへの参加や最新情報の入手、会員限定アンケートへの回答が可能だ。これにより、親同士での交流や直接企業へのフィードバックが行える環境が整えられている。
ファンの声を取り入れ商品を実際にリニューアル
岩塚製菓はファンサイト上でのコミュニケーションのみならず、「ファンミーティング」も行っていたが、コロナ禍となり大きな変化があった。
以前の「ファンミーティング」は東京でのリアル開催だったが、コロナ禍を機にウェブミーティングに移行した。一般化したウェブミーティングにより、全国各地のユーザーが気軽に参加することができるようになり、ファンとのコミュニケーションが活性化したのだ。
そのタイミングで「おこさませんべい」のリニューアル企画が立ち上がり、ファンミーティングでユーザーからの意見を募った。
「メーカーの人に直接意見を言えるということで、とてもモチベーション高く参加していただきました。多分普段から思っていることがあったのだと思います。『もっとこうした方がいい』などの前向きな意見や、『普段どうやって使っている』というような声をたくさんいただけました」(太田氏)
岩塚製菓は発売してから50年以上一度も変えていなかった「おこさませんべい」を、ファンの意見を取り入れた形でリニューアルした。ファンサイトによりファンを顕在化し、そのファンが熱量高く参加してもらえるよう継続的にコミュニケーションをとってきた成果といえる。
リアルで小さな悩みが共感を生み出す
子どもの寝かしつけや食育、親の育休復帰など、育児に関するリアルな悩みや解決事例などを発信
さまざまなコンテンツがあるファンサイト「おこせん」だが、なかでも定期的に取材やアンケートを実施し、ユーザーの大きな悩みから小さな悩みまでを拾い上げて共有している点が多くの支持を得ている。
太田氏は、「世の中には専門家の意見を聞くコンテンツもいっぱいありますが、他のパパママたちの経験を、『みんなこうして乗り切ったよ』、というリアルなエピソードを上げているコンテンツがあります。小さい悩みでも『私だけじゃないんだ』、『あと3ヶ月経ったら(悩みが)無くなるかもしれない』、という希望を持たせてくれるものもたくさんあって、そういう『共感』が皆さんに支持されていると思います」と話す。
特に離乳食時期の子どもは、育ち方が千差万別。子育ての悩みに対して、一般的な正論や、子育てマニュアルのようにはならないことが多いのも現実だろう。
川村氏は、「苦しいときに何が救われるかというと、共感できるコンテンツだと思います。特に最近だとコロナ禍で、親御さんの横つながりが気迫になっている中で、『こういうことがあるよ』と発信するのはすごく大事だと思っています。それを実施できているというのはとても意義があると思っています」と語った。
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これからの時代、顧客との強い結びつきを持ち、ファンを大切にして中長期的な成長を図る企業はますます注目されるだろう。
岩塚製菓とそのファンサイト「おこせん」は、まさに注目すべき取り組みである。商品情報の提供にとどまらず、育児の悩みに真摯に寄り添い、子育て世代の共感を生み出すコンテンツで、商品の枠を超え、社会的な価値提供を行っている。
今後岩塚製菓がどのようにして顧客との関係を深め、さらなる飛躍を遂げていくのかを注目していきたい。
(文 中林憲司)
【関連サイト】
ファンサイト「おこせん」