【社会に向けて警鐘】 「介護保険制度守って」 上野千鶴子氏が、新潟市で講演 身寄りなし問題研究会がシンポジュウムを企画 

後半のシンポジュウムでも、真剣な議論が交わされた

新潟県新潟市を拠点に身寄りがない人が直面する様々な問題について研究し、その啓発と解決に向けたソーシャル・アクションを目指しているNPO法人「身寄りなし問題研究会」(新潟県新潟市 須貝秀昭代表理事)は12月3日、新潟市中央区にある「だいしほくえつホール」において、「最期は皆おひとりさま どう迎える安心の老いと死」と題して、年末緊急シンポジュウムを開催した。業界関係者を中心に、200人以上が聴講した。

シンポジュウムが行われた、だいしほくえつホール

基調講演として、『在宅ひとり死のススメ』などの著者で、NPO法人ウィメンズアクションネットワークの理事長、そしてフェミニズム社会学の著名な研究者として知られる上野千鶴子氏を招聘。今後、ますます増加の一途を辿ると考えられている高齢者の「在宅ひとり死」について実現が可能か、可能であればどのような環境が必要か、ということを具体的な事例を用いて紹介しつつ、検証した。

上野氏によれば、「在宅ひとり死の実現は可能」という。しかも、認知症の場合でも、周囲の見守りやサポートをしっかりと整えることで、それが可能になるという。その際、‟キー“となるのが、介護保険制度である。

2000年に施年行され、現在23年の歴史がある。その間に、小規模多機能共生型デーサービスや民家活用型ホスピスなど、介護保険導入時には存在していなかった介護の手段が誕生し、それらのサービスを行政が追認する形で「地域密着型事業」が登場。

その間に、現場で医師やソーシャルワーカーなどの経験値も上がり、スキルが強化した。プロ意識をもった介護人材が育ったことによって、かつてなら不可能だった「在宅ひとり死」も選択肢の一つに入れられるようになってきた。

「介護保険が在宅ひとり死を可能にした」という。「認知症になっても、安心できる社会を作りたい。しょうがい者になっても、殺されない社会を作りたい」と述べた。

現在の介護保険制度の重要性について語る上野千鶴子氏

さらに、2024年度に行われる予定の介護保険制度の改正についても触れ、「史上最悪の介護保険改定がなされようとしている。介護保険のおかげで、親を一人でおいて置ける。今の介護保険制度を守ってほしい」と訴えた。

上野氏の講演後は、東京大学文学部助教の税所真也氏、ひろさわ内科クリニックの唐澤利幸院長、角田山明光寺の小川英爾院首、同法人の須貝秀昭代表理事も交え、法定後見人制度や在宅診療の現状などについて意見を交わした。

法定後見人制度や死後の弔いについて、身寄りがない人の抱える問題について議論を深める

新潟市江南区から参加した栗原真弓さん(ケアマネージャー 40代)は、「在宅での見取りは難しいと思うが、在宅で見取りができればすごくいいなあ、と話を聞きながら思った」と感想を述べた。

今回のシンポジュウムの企画は、7月19日に行われた「しもまちカンファレンス」の懇親会の際、同カンファレンスに出席していた上野氏と税所氏に、須貝代表理事が講演会を打診し、実現した。

「主催は身なし研になっているが、実は妙光寺がほとんど主催。費用面も含めて、身なし研に花を持たせてくれた感じ」と、同法人の須貝代表理事(52歳)はコメントした。「(シンポジュウム後の)アンケート結果も好評。おひとりさまの不安で参加された人が、少しでも‟なんとなる“と思ってくれたと思う」と語る。

シンポジュウムを終えて上野氏は、「よくこんな悪天候にこれだけの人が来てくれた。新潟には、人材がいらっしゃる」と感心していた。

「人の背後に制度がある」と上野氏

これからも様々なことを仕掛けていくという須貝代表理事。理想の完成図は、彼の頭の中にある

須貝代表理事によれば、現在、同法人では「後見部門」を立上げ中とのこと。弁護士も引き込んで、任意後見だけでなく法人後見も行いながら、今後の体制づくりをしていくという。また、身寄りなし問題の解決の一つとしての「支え合い」「互助」といった概念を啓発するため、「ささえあいヒーロープロジェクト」も企画も進んでいる。福祉部門に特化した、ご当地ヒーローのようなものを考案しているという。これが実現すれば、福祉業界初のヒーローが誕生することになるかもしれない。

NPO法人身寄りなし問題研究会の活動に、ますます目が離せない。

 

【関連サイト】
身寄りなし問題研究会公式Webサイト

 

(記事・撮影 湯本泰隆)

こんな記事も

 

── にいがた経済新聞アプリ 配信中 ──

にいがた経済新聞は、気になった記事を登録できるお気に入り機能や、速報などの重要な記事を見逃さないプッシュ通知機能がついた専用アプリでもご覧いただけます。 読者の皆様により快適にご利用いただけるよう、今後も随時改善を行っていく予定です。

↓アプリのダウンロードは下のリンクから!↓