【人々に見せ、訴えかける展示】 新潟県立歴史博物館の展示は何故、素晴らしいのか
新潟県長岡市にある新潟県立歴史博物館(小原清文館長)では、12月17日まで「守れ!文化財『障害』をめぐるモノとヒトに光を灯す」が開催されていた。
「障害」に関する資料は、いままで数多くあったなかで、これまで博物館の展示として扱われることが少なかった。
「障害」とは一体何なのか、名前の付いているものだけが「障害」なのだろうか、と来館者に考えさせるような展示構成は、資料を単に並べただけで満足させる従来の展示とは一線を画す、教育的意図を持った内容となった。
担当したのは、同館経営企画課の山本哲也課長代理(60歳)である。山本課長代理の専門は、博物館の運営や展示方法など、博物館について総合的な角度から、学術的に研究する「博物館学」である。
2018年には、「守れ!文化財ー博物館のチカラ、市民のチカラー」を担当している。
今回の展示のきっかけとなった出来事があったという。それは、京都盲唖院関係資料3000点が重要文化財に指定されたことである。
そのうちの367点が聾学校の資料を所蔵することになった。しかし、学校という性格上、資料などの保存に不安があるという。
関係者から相談を受け、資料を守り、受け継ぐために結成されたのが、「守れ!文化財~モノとヒトに光を灯す~」事業実行委員会だった。
「いわゆる‟障害”に関する史料が世の中にあふれているなか、“文化財”として指定されているか否かは関係ない。そのどれもが“文化財”という考えの元、資料を調査し、整理した」という。
「(今回の展示で)博物館人として、‟モノを守る“ということと、‟「障害」を理解してもらう”ということになんとか落としどころを見いだせた」と山本課長代理は語る。
「障害」というものを自分事として理解してもらうためには、モノだけの展示をしているだけでは伝わらない。
当初、ぎりぎりまで納得できる展示に仕上がるのだろうかという懸念はあったが、来場者の反応は良かったという。
「我々が思った以上に(展示の意図が)伝わったようだ」と山本課長代理も満足そうである。重いテーマだからこそ、みんながこぞってというより、ゆったりみてもらえるような展示になった。
新潟県小千谷市から来館したサトウさん(40代)は、「こういうのもやってるんですね。とても良かったです」と感想を述べた。サトウさんが、同館に足を運んだのは何年かぶりのこと。今回たまたま近くを通って、企画展の看板が目を引いたのだという。
資料の展示だけではない。点字が普及する前に盲学校で使われていたという木版凸字を体験できるなど、実際に資料を手に触れながら、体験することもできるような展示となった。
資料そのものについてはもちろん、展示のテーマや、社会啓発なども視野に入れた同館の展示が、来館者に啓発と感動を与え、社会を動かすきっかけになることは間違いないだろう。
同歴史博物館では早くも2024年1月13日から次の企画展「越後の木綿 いま むかし」が開催される。
今回も、「観る」だけでは終わらない素晴らしい気づきと学びがそこにある。
【関連リンク】
(記事・撮影 湯本泰隆)