【特集】完全オフライン対応の生成AI「Chimaki」誕生、リスク抑えたAIで地方DX促す、K-walk(新潟県加茂市)波塚飛鳥さん<後編>
前回はこちら→ 前編「セキュアな現場でも使える生成AI」
目次
<前編>
○セキュアな現場でも使える生成AI
○あらゆる職場に潜むITリスク──「最前線」とは異なる視点のAI
<後編>
○大学院を経てアプリケーションの開発者へ
○地方のデジタルリテラシー向上を
大学院を経てアプリケーションの開発者へ
波塚さんは加茂市の出身で、高校卒業後は新潟医療福祉大学(新潟市北区)へ進学。現在はK-walkのCDOとして独自AIの開発まで手掛けるが、本格的にプログラミングの勉強を始めたのは意外にも大学院へ進んでからだった。
「データ収集を効率化するため、Excelでできるようなプログラムを組んだのが最初。そこから趣味でプログラミングを勉強していた」(波塚さん)。当時の主な研究テーマは地理疫学。プログラミングの知識を活かし、疫学研究のツール開発で修士号を取得した。「地域」をテーマにDXで解決を探っていた当時を振り返り「今もやっていることの軸はブレてないかな」と笑う。
後にK-walkの代表取締役となる永山光夫さんと出会ったのは2020年、博士課程の頃。当時、加茂市が健康促進を目的に事業を開始。その際、地域の情報発信と万歩計をかけあわせたアプリ「ARuKAMO(あるかも)」の開発に携わったのが最初だった。
当時、大手研究機関からのスカウトもあった。しかし、民間という環境でサービスを開発しながら、様々な業界と垣根を超えてタッグを組む現在のポジションに魅力を感じた。また、「加茂市をはじめとした地方都市では、目に見える効果が出やすいというところがある。今までwebサイトも無く作ろうとも思っていなかったような事業者から仕事を受け、本当にゼロからの立ち上げに関わることができるのが面白いところ」(波塚さん)。
二人三脚で事業を進めてきた永山さんからの信頼は厚い。「近年は機能性が問われる時代で、エビデンスが重要視される。そのため、学術的な論文を読める人が居ると助かるし、地方でも良い商品を作ることができる。また、『地方で何かやりたい』と考えた時に相談できる人間が居るのは心強い」(永山さん)。
地方のデジタルリテラシー向上を
K-walkでは主に加茂市内の事業所を対象にwebサイトやアプリなどを開発してきたが、地方ではITの導入が思うように進まないことも多い。例えば、毎年開催される「雪椿まつり」では、市の事業でデジタルクーポンアプリの制作を請け負ったが、「『本当は参加したいけど、ウチでは対応できる人が居ない』と参加を見送る店舗が多く、初年度の利用可能店舗は5軒のみだった」(波塚さん)。
それでも事業を継続した結果、前回2023年の参加店舗は40以上にまで拡大。しかし、波塚さんは「このアプリが特別素晴らしいものだった、ということではなく、弊社スタッフが市内各店舗へ赴きアプリの紹介や使い方の解説を行った結果」だと語る。地方のDXにとっては、アナログで地道なコミュニケーションが重要だった。それは、「Chimaki」のコンセプトに通じるところもある。
波塚さんが「Chimaki」の構想を始めたのが2023年4月。だが、時代の先端を走る分野だけに、開発には苦労も多かった。「Chimaki」はオープンソースの言語モデルを元に開発した形だが、その参照元も日々アップデートが重ねられており、どの段階のデータを製品に組み込むかの見極めが重要だったためだ。また、プログラミングにおいて参考にできる先行事例も少ない。
そんな困難を乗り越えて完成した「Chimaki」で、人手不足が深刻化する地方の業務環境効率化を狙う。だが、波塚さんが目指すのはそれ以上に、利用者のデジタルへのリテラシー向上だ。「地方をはじめとした中小規模組織では、ICTを導入に関する規定や前例がないことがほとんどで『何をしたらいいのか』が分からない。幅広い知識と行動力でDX推進をサポートできる人材が必要」(波塚さん)。
K-walkでは2024年度から、加茂市の事業でプログラミング教室を開始する。使う人の理解あってこそのITであり、生成AIだ。担い手不足が深刻な加茂市だからこそ、効率化が実現すればそのインパクトは大きい。デジタルによる地方創生のモデルケースを目指し、同社の戦いは始まったばかりだ。
(文、撮影・鈴木琢真)
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株式会社K-walk
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