【帰る旅】 郷愁・歴史と質感 ― ロイヤル胎内パークホテルへ小さな旅で「胎内回帰」する

欧州の城のようなロイヤル胎内パークホテルの佇まい

「帰省」以上、「観光」未満

昨今の観光・旅行業界では、これからの時代で求められる旅行の形態は「帰る旅」だと提唱している。「何度も何度も、ある地域、ある場所へ通う旅」を称して「帰る旅」という。

日常で仕事をしている場所があり、そことは別に日々の疲れから逃避する土地。それは郷里や実家でなく「仮想のふるさと」と言うべきか。「移住」や「二拠点生活」とも一線を画す感覚。地縁血縁はないが「ただいま」と帰ったら「おかえり」と迎えてくれる、そんな土地に、定期的に回帰するのが、昨今旅行業界のキーワードとなっている「帰る旅」なのだ。

「帰省」ほど日常でなく「観光」ほど非日常でない、その中間に需要がある。観光振興を模索する全国自治体や旅行業界は、まさにこのコンテンツを創設するため、素材の掘り起こしに躍起だ。

大自然の中に屹立する城のごとく

今回「帰る旅」を探しに、訪ねたのは真冬の県北、奥胎内(胎内市)。雪景色が美しい胎内高原リゾート。

ゴルフ、スキー・スノボ、グランピング、トレッキング、渓流釣り、温泉などアクティビティには事欠かない。春にまぶしい新緑、秋には彩りの紅葉、冬に真白く化粧された雪山、シーズン通して晴れた夜に満天の星空と、シーンごとに様々な表情を見せる抜群の景観。

大理石に囲まれたエントランスは「特別」な雰囲気がある

新鮮な地野菜、地場産のハム・ソーセージ、パン・洋菓子はじめ米粉グルメ、地粉の手打ちそば、地ワイン、クラフトビールなど、食=ローカルガストロノミーの魅力も高水準。

この奥胎内のエリアが、新潟を代表するリゾート観光を有するのは、その素材の豊富さからかもしれない。

四季を通じて、その魅力に、景色に変化がある。だから「帰る旅」に選ばれる。「帰る旅」を求める人にとって、シーンごとに違う表情で迎えてくれる土地には楽しみがある。

胎内エリアで栽培される地野菜の味は格別

この日の宿は、ロイヤル胎内パークホテル。胎内高原リゾートの、まさにランドマーク。高原に凛と屹立する姿は、まるで欧州の湖上を見下ろす城のように美しい。

エントランスをくぐれば、大理石とステンドグラスを贅沢に設えたゴージャスな内観。クラシカルな趣は品格を感じる。高付加価値な「コト消費」を予感させるに十分な質感がある。

そして、部屋に入れば窓の外に広がるのは、絵画のような里山の雪景色。冬山の絶景は、日常にすり減った脳をほぐし、疲れた体にしみこんで行く。

冬景色はいっそう郷愁を誘う

ローカルガストロノミーの素晴らしさ

館内のレストラン「MISAGO」でいただいた料理も土地の魅力が詰まっていて実に趣深い。

この日は洋食のコースだったが、地の素材を活かしたアレンジを堪能させていただいた。味覚もまた、季節ごとに訪れる理由になる。特に地の野菜を使用したキッシュや、隣の村上市産「黄金豚」が入ったポトフなどは、上質な郷土の味覚。

ポトフには、地元胎内産の野菜と村上市の黄金豚を使ったポークソーセージ、新潟県産牛肉

テーブルには米粉のパンが届けられる。米粉はこの胎内の地にとって重要な意味を持つ食材だ。まだ世の中に米粉の存在が認知されていなかった頃、新潟県が国内で初めて確立した「微細製粉技術」を活用し、胎内市(旧黒川村)に設立した第三セクター「新潟製粉株式会社」。同社が開発したきめ細かくなめらかな米粉によって、ケーキやパン、麺類などに応用されていった。その意味で胎内は米粉発祥の地という言われ方もする。特製の米粉パンは、館内のベーカリー「ロロ」でも買える。

果実味があふれる凝縮感のある味わいの胎内ワイン

最高の食事を引き立てるのは、ドイツブラウマイスターがこの地に伝えた胎内高原ビール、国内のコンクールで受賞歴多数の果実味と凝縮感に優れた胎内高原ワイン。地物の酒類のポテンシャルも極めて高いのは、ますます旅の魅力を深める。

展望露店風呂で「宇宙」に抱(いだ)かれてみる

食欲が満たされれば、次なる楽しみは温泉。ここ「新胎内温泉」は開湯が2001年と、比較的新しい温泉だが「ナトリウム-炭酸水素塩・硫酸塩泉」という特徴的な泉質が、温泉好きにとっては非常に価値が高い。ヨーロピアンなたたずまいのホテルが、とびきりの温泉自慢というのは、意外性があって体感する付加価値が高い。

全国の天文ファンにも知られる胎内の星空。展望露天風呂「宙の箱舟」から

お湯に触っただけですぐに違いがわかる。濃度の高いナトリウム泉質で、トロみがありぬるっとしている。これが肌にしっかり浸透し、皮膚の角質を軟化させ皮脂を洗い流す、まさに「美肌の湯」。入ってすぐに「美肌の湯」が実感できる温泉は希少。まとわりつくほどの湯は、実に気持ちがよい。

まさに美肌の湯、入ってすぐ実感できる

ぜひとも体験していただきたいのが、展望露天風呂「宙(そら)の箱舟」。ここ奥胎内は、天文ファンにも知られている星空の名所。晴れた夜には満天の星空が頭上に広がる。この季節は、雪見に加えて星見も、というとびきりの贅沢。
これは果たして現実なのか、と思わんばかりの癒し空間は、まるで周囲の自然と一体になり、宇宙に抱(いだ)かれているかのよう。

母なる自然との同化は、まさしく「胎内回帰」の具現。

胎内リゾートの礎にこころ震える

素晴らしい奥胎内の観光コンテンツは、外からの投資によって作られ、磨かれたわけではない。
胎内市に合併する前の旧黒川村が、ひとつひとつ作り上げていった。スキー場も、4箇所あるリゾート宿泊施設も、ワインもクラフトビールも、米粉工場も、もともとは「黒川村立、村営」だった。人口7,000人に満たないありふれた規模の村が、そのすべてをつくった。なんというバイタリティか。

館内にあるベーカリーでは、胎内市が「発祥」ともいわれる米粉パンが売られている

かつて黒川村には12期48年を務めた伊藤孝く場所がないからだ」と思い立ち、黒川村の豊かな自然を活かしたリゾート開発に目を向けていった。
「つくるからには本物をつくらなければ見向きもされない」伊藤が掲げた確固たる方針で、リゾートを欧州から学ぼうと、村役場の職員をはじめとする村の若い担い手がドイツやスイスなどに派遣されていった。
本場でリゾートや食を学んできた若手が、ひとつひとつコンテンツに磨きをかけた結果、つくりあげられた質の高い観光地には、昭和天皇皇后両陛下、皇太子殿下・皇太子妃殿下など皇室が3度にわたって足を運ぶほどに名声を得るようになった。

「まちおこし」「まちづくり」という長閑な言葉では語りつくせない戦いのドラマが、この地にはあった。リゾートのトレンドは、時とともに移ろう。かつて昭和を彩った多くの観光地が今は見る影もない、といった例は掃いて捨てるほどあるが、胎内高原リゾートはその質において時間を経ても決してセピア色に褪せない。

こうして地域(地域に生きる人)そのものが「本物のリゾート」を追い求めてきた土地は、DNAに脈々と受け継がれていくものなのだ、そんな思いが残った。

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