【新たな価値創出】きもののいつ和グループによる通年開催される「家族のための成人式 」が結婚式より感動を呼ぶ理由(再掲載)
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初回掲載:2024年3月5日
成人式をもっと意義深く
株式会社いつ和(十日町市)は、呉服業界でトップクラスとなる全国125店舗を展開するとともに、産地に直営工場も持ち、商品企画から販売・きものお手入れ処(クリニック)にいたるまで、工程を一貫生産・管理するメーカーベンダーでもある。
そのいつ和グループが近年力を注いでいるのが通年開催の「家族のための成人式」だ。新しい概念でありつつも成人式の本来の姿に立ち返ったものでもある。
現在、一般的に全国の自治体で執り行われる「新成人の集い」いわゆる「成人式」なのだが、そのルーツは1946年に埼玉県蕨市で行われた「青年祭」だと言われる。太平洋戦争の戦火に散っていった若い命を弔うとともに、これからの未来を担う若者たちに希望を持ってもらうために地元青年団が企画したのだとか。これに政府が触発され「おとなになったことを自覚し、みずから生き抜こうとする成年を祝い励ます」という趣旨で制定した祝日が「成人の日」だ。
現在の成人式参加率は地域ごとに差異はあるものの全国平均で約60%(2018年きものと宝飾社の調査)なのだが、その内容は本来の意義を外れて、単なる自治体主催のイベントとなり形骸化してしまったのが実情だ。
そしてセレモニー自体はお仕着せになっている一方で、成人式で着る晴れ着はレンタルでも着付けサービスを入れて20万円程度と、かなりの負担になる。もちろんこれを負担するのは親なのだが、一般的には懐を痛めた親が晴れの場に同席するわけでもないのは寂しい限り。
二十歳まで育て上げた、また育ててくれた、親と子の一つの「区切り・節目」という色も薄い。「成人式は誰が誰のために行うものなのか」これが「家族のための成人式」の発想の源である。
また背景はもうひとつある。社会的には晩婚化、未婚化などの傾向があるのはご存じの通り。一昔前であれば、育て上げた娘を嫁に出すとき、娘から「今まで育ててくれてありがとう」と感謝の気持ちを示す「区切り・節目」がそこにあったが、現在はこれさえも希薄になってきたのが、親としては寂しいところ。その意味で成人式であれば、基本的には世のすべての娘が通過することもあり、親と娘の区切りの儀式としてはふさわしいともいえる、というところだ。
最近の若者は家族と仲が良いと言われる。親と子の関係性がラフで気楽なものになってきたこともあるが、家族の想いの優しい若者が増えた。「家族のための成人式」が受け入れられる素地は十分で、このあたり着眼が鋭いと感じる。
「結婚式がいらないくらい」
では「家族のための成人式」はどのように運ぶのか。これは一般的な結婚式と似ている部分もあり、似て非なるところも多い。
会場は日本全国様々な場所で執り行われる。安価な会場から京都の仁和寺など有名な寺社仏閣や銀座sixの能楽堂など、家族の思い出にふさわしい場所を自由に選べる。通年実施なので特に「成人の日」にこだわる必要もなく日取りも自由に行える。
次にいわゆる「前撮り」なのだが、写真スタジオには家族で入場、「絆の紐」と呼ばれる帯飾り紐を、振袖に着飾った娘の帯に結ぶところから始まるのだ。それが終わると父・母から「巣立ち証書」(家族の卒業証書のような書状)が授与され「これまでいろいろなことがあった」という万感の想いをしたためた手紙を朗読。続いて娘の方から感謝状を朗読。
その後、家族によっては記念のプレゼントを渡すなどのセレモニーも用意される。またオプションのサービスには、親子で指輪の交換をする「HATACHI RING」のセレモニーもある。指輪の裏側には直筆の短いメッセージがレーザー刻印されているあたり、勘所をつかんでいるではないか。
結婚式のように数多くの来客があるわけでもなく、その場で晩餐が繰り広げられることもないので、式自体は40分程度だというが、なんという内容の濃さ。一般的な自治体の成人式では絶対に味わえないだけでなく、ほぼ家族だけで行うクローズな場面というのが絆をより一層深めそうだ。これが結婚式なら、娘の父親にとってはある意味で悲壮感漂うものにもなるが、成人の儀式なら「ここまで育て上げた」という嬉しいばかりの儀式になるところも良い。家族のための成人式を行ったある親など「感動が大きく、これならもう結婚式はなくても良いかな、と思った」とまで話したという。
いつ和グループ「成人式サロン・KiRARA」では、「家族のための結婚式」が2018年から展開スタートしているが、初年度507件だった実施数が2020年には815件となり、2022年には1,000件に。コロナ禍で実施数が伸びた稀有な例といえる。
きもの・呉服の市場全体を見渡すと、ピークの1980年代に比べ現在はその6分の1まで先細っている。これだけきもの離れの傾向が著しい中、きものを売るにはそれを着て出かけるシーンから創出しなければならず、これまでのメーカーは作って売るだけでは存続が難しい時代になってきた。その意味で「家族のための成人式」は、新たな価値創出とも言える。