【変わる外国人技能実習制度】「この会社に残りたいと思える環境づくりが大事」ベトナム人材を受け入れて6年、全研ビルサービス(新潟県三条市)

ベトナム人スタッフ(中央)とともに撮影(画像提供:全研ビルサービス)

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初回掲載:2024年3月22日

 

実質的に人材確保の一手段として存在感を放っていた外国人技能実習制度が、大きな転換期を迎えている。新制度の中で特に注目を浴びるのが、「転籍(転職)」のハードルが大きく下がった点だ。特に、本県・新潟も含めた地方では、人材の流出が危惧される。

「転職可能であっても、この会社に残りたいと思えるような(外国人材に)満足してもらえる環境づくりが大事」そう話すのは、 株式会社全研ビルサービス(新潟県三条市)の佐藤典保代表取締役社長

同社では技能実習生を受け入れて6年。言語の違いなどで苦慮した面もあったが、住居の整備やマニュアルの制作などでノウハウを蓄積。また、今後の海外での事業でも外国人人材の起用を目指す。

今回は、同社の取り組みから、様々な課題が残る外国人技能実習制度のヒントを探った。

 

現場で活躍する若きベトナム人たち

佐藤典保代表取締役社長

全研ビルサービスは1975年創業。ビル管理や清掃を手掛け、燕三条地域のみならず新潟、長岡、富山にも事務所を構える。一方で、「弊社は典型的な労働集約型産業で、人を扱った仕事がメイン。人手不足が慢性的な課題になっている」と佐藤社長。初めて技能実習生を受け入れたのは2018年。同氏が社長に就任してまだ1年ほどの頃だった。

全研ビルサービスでは、ケア・アジャスト協同組合(新潟市中央区)を通じて主にベトナム人の実習生を受け入れている。主な業務やホテルの清掃やベッドメイクなど。女性用トイレの清掃などの兼ね合いもあり、全員女性だ。

初年度に来たのは6人。特定技能生となって首都圏へ出た人も居たが、期間満了の5年間務めた人もいた。就業期間は平均して3年ほどだが、中には日本人男性と結婚し、改めて入社して三条に残った人もいる。

受け入れを始めた当時の印象について、佐藤社長は率直に「当初思っていた、一生懸命真面目に働くイメージそのままで助かっている」と話す。また、日本人スタッフは高齢の人が多いが、実習生は20歳代から30歳代が多いため、力仕事も多い清掃業務では実力を発揮してくれるという。

清掃業務の様子(画像提供:全研ビルサービス)

 

重要なのは「長く働きたい」環境

技能実習生を受け入れる上では、住居のサポートも欠かせない。全研ビルサービスでは、大きめの一軒家を改装して寮のように利用している。近年は受け入れ人数が増えたことから、より大きな物件を購入。現在は1人1部屋使える体制をとる。また、生活に必須のスーパーマーケットや、お祭りなどの地域イベントにも案内して生活をサポートした。

ベトナム人の大多数は仏教徒であることから、日本での生活において信仰や習慣の面でのギャップは比較的少ない。とはいえ、衝突が起こるのは異文化交流の常だ。

「最初の頃は、盛大に誕生日パーティを開くなどして近所トラブルになることもあった。また、『日本の冬がこんなに寒いとは思わなかった』と言われたことも」(佐藤社長)。その際には、電気毛布や暖房機器を導入したというが、やはり現地での生活などは、実際に体験しなければ互いに分からないことは多いようだ。

ベトナム人スタッフともに(画像提供:全研ビルサービス)

こうした状況もあり、全研ビルサービスではケア・アジャストとともにベトナム語のマニュアルを作成。まだ言語や生活、仕事に慣れない期間の不安と問題を緩和する。なお、ケア・アジャストでも受け入れ先企業と実習生のサポートを行っている。ケア・アジャストに所属するベトナム人通訳がLINEなどを用いて実習生から随時相談を受けており、通訳経由で課題を解決することもあるという。

課題に先回りして対処できる体制と、母国語で話せる相談相手の存在。期間は決められているとは言え、「長く働きたい」と思える環境を構築する。「現在は先に日本に来ている『先輩』ベトナム人実習生もいるため、彼女たちがアドバイスしてくれる事も多い。そうした点も考えると、1年目が最も大変だったかもしれない」。そう佐藤社長は振り返る。

 

「共生」と活躍の場、今後の海外事業にも

全研ビルサービスは今後、インドネシア人実習生の受け入れも考えている。インドネシアは言語も宗教もベトナムとは異なる。しかし、日本人スタッフの意識など、これまで6年間培ってきた異文化交流のノウハウが活きることは間違いない。

また、同社はインドネシアで日本人観光客向けのリラクゼーション施設を、現地企業と共同経営する計画を進めている。将来的には実習生を通訳として起用したり、人材交換を行うことも考えており、インドネシアからの実習生受け入れはある意味その布石となる。

ケア・アジャストの西巻政廣代表理事は以前のインタビューで「共生が重要」と語った。「実習生を安い賃金で利用するような企業ではいけない。これからは共生の時代だ。実習生を育てようとする企業と付き合っていくことが最も大切」(西巻代表理事)──。

人口減少、都市への流出、特定業種への集中……。現代において、人手の必要となる現場を日本人だけで回すことは難しくなりつつある。また人材の国際化も進む中、実習生を買い叩くような、「共生」できない企業の明日は暗い。

実習生への投資や、彼らのキャリアに繋がる取り組みを始める全研ビルサービスに、これからの「共生」のヒントがあるだろう。

株式会社全研ビルサービス 本社外観(画像提供:全研ビルサービス)

 

【関連リンク】
全研ビルサービス webサイト

 

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