【第9回-①】「信濃川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる」くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年 石塚正英(東京電機大学名誉教授)

前回(第8回)はこちら→ 8-1. 前曳きオガが高麗時代の半島にあった!

 

9-1. 信濃川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる

大きなノコギリ“大鋸(オガ)”に言及した第8回は、私がながく調査研究してきた古代日韓文化交流に関連しますが、今回と次回はそのテーマをダイレクトに扱います。

私は、古代日韓交流史には、半島南岸・東岸から海流に乗って日本海を横切り、能登、佐渡、頸城地方へと通じる渡航ルートがあったと考えています。その一環として、日本海沿岸の河川を遡上して関東地方に向かう列島内ルートを予測しています。そのルートの列島最終地点の一つとして、群馬県高崎市の保渡田古墳を見据えています。まずは、日本海側のコシ(越後)から太平洋側へと峠越えするにあたって要衝となるカミツケ(上野)までのルートおよびその地で発見された遺跡・遺物の幾つかを解説します。

古来、人々は、日本列島と朝鮮半島とをよく行き来していました。けっして偶然の波任せではなく、意識的に波を利用して、両地域の人びとは相互に往来していたのです。その歴史事象を、数次にわたる現地フィールド調査を踏まえて、信濃・上野古代朝鮮文化の信濃川・千曲川遡上・峠越えというテーマでまとめることが、現在の私の研究課題です。これまで調査した幾つかの遡上・峠越えルートを以下に列記します。

1.新潟県胎内市の天野遺跡―信濃川から加治川へ遡上、朝鮮半島で作られた陶質土器出土。

2.新潟県南魚沼市六日町の飯綱山古墳群―信濃川の支流にあたる魚野川流域、朝鮮半島由来の可能性が高い鉄鉾、砥石、馬具出土。

3.長野県木島平の根塚遺跡―渦巻文装飾付鉄剣、鍛造の高度技術と共に、渦巻文装飾から考えて朝鮮半島の伽耶方面。

4.長野県長野市の大室古墳―積石塚は高句麗の墓制積石塚、特徴的な合掌形石室は百済の墓制と関係。

5.長野県須坂市の八丁鎧塚古墳―高句麗の墓制積石塚、半島南部に由来する鍍銀銅製獅噛文銙板出土。

6.長野県千曲市埴科の高句麗人名―「真老等は須々岐」に改名とある、『日本後紀』桓武天皇延暦十八年。

7.長野県千曲市の翡翠―円光坊遺跡や屋代遺跡群で出土した翡翠は、汀線文化の一つとして信濃川を遡った。朝鮮文化遡上の傍証。

8.長野県上田市の武石古墳―九州の弥生時代集落吉野ヶ里で作られた巴形銅器のうち、あるものは北陸沿岸を経由して北信濃の武石へ、海をわたって韓国南部の伽耶へ、それぞれもたらされたのだろう。

9.群馬県渋川市の金井東裏遺跡―6 世紀に榛名山の噴火で埋没した人骨、父親が渡来集団の一世で、男性は日本で生まれた二世なのかもしれない。いずれにせよ渡来して間もない。信濃川遡上の有力な根拠。

10.群馬県高崎市の保渡田古墳群―金銅製飾履は半島南部、伽耶・新羅に由来。

11. 保渡田古墳群の周辺の下芝谷ツ古墳―高句麗に起源を有すると推測できる方形積石塚、日本海沿岸の遺跡から多く出土する舟形石棺(写真)。

舟形石棺

12. 『続日本紀』霊亀2 (716)年5月16日に、駿河、甲斐、相模、上総、下総、常陸、下野から高句麗人1,799人を武蔵国に移し高麗郡を設置したとある。

さて、今回は壮大なる、夢想大なるアルカイック・バースへとみなさんを誘いたく思います。それは越後国に見据える【プレ邪馬台国】のトロイメライ(空想)へのいざないです!

〔参考地図〕青色は従来紹介されてきた航路、ピンクは石塚のオリジナル試図

 

(第9回-②に続く)

 

石塚正英

1949年生まれ。18歳まで頸城野に育まれ、74歳の今日まで武蔵野に生活する。現在、武蔵野と頸城野での二重生活をしている。一方で、東京電機大学理工学部で認知科学・情報学系の研究と教育に専念し、他方で、NPO法人頸城野郷土資料室を仲町6丁目の町家「大鋸町ますや」(実家)に設立して頸城文化の調査研究に専念している。60歳をすぎ、御殿山に資料室を新築するなどして、活動の拠点をふるさと頸城野におくに至っている。NPO活動では「ますや正英」と自称している。

 

【連載コラム くびき野の文化フィールドを歩む】
#8-1. 前曳きオガが高麗時代の半島にあった!

#7-1. 胸張る狛犬獅子像―朝鮮半島とくびき野の交差点

#6-1. 小野小町の死生観

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