【コラム】「日本政府観光局バンコク事務所長の頃 ~所長として取り組んだことのまとめ②」元新潟県副知事・中国運輸局長 益田浩
はじめに
新緑の季節となりました。新潟では、チューリップ、藤、芝桜などがきれいでしょうね。ゴールデンウィークも多くの人出で賑わっていることでしょう。十日町きものまつりや信濃川やすらぎ堤まつりなども懐かしく思い出します。
そういえば、新潟駅の新バスターミナルやCoCoLo新潟など、駅構内の工事がほぼ完成しました。随分、様子が変わったのだろうなぁ。気になる店舗もたくさんあります。中国運輸局での任期が終われば、NGT48の劇場公演の観賞を兼ねて、1泊2日で新潟での旧交を温めに行きたいと思っています。この2年間で、NGT48では本間日陽さんを始め、結構な数のメンバーが卒業していきました。公演での顔ぶれも随分変わっています。もはや私は忘れられてそう。
この1ヶ月の動きでは、トキエアが北海道の丘珠空港に次いで、仙台空港に就航しました。新潟滞在中に仕事で仙台に行きましたが、上越新幹線から東京経由で東北新幹線への乗継だったので、かなり遠かったです。フライトだと片道45分ですか。近くなりますね。仙台エリアとの交流が活性化することを期待します。
運航路線を見ると、中部国際空港や神戸空港にも就航の予定があるようです。楽しみですね。将来、広島空港にも就航してくれれば嬉しいです。広島から新潟だと大阪経由、東京経由のいずれもかなり時間がかかりますので。
新幹線と言えば、北陸新幹線が敦賀まで延伸して1ヶ月強経ちますが、上越エリアなどの新潟県内でも、途中下車する観光客の増加とか、新幹線延伸の恩恵を受けていれば良いなと思います。今年3月、新潟県は新潟市と上越地域を結ぶ高速鉄道計画の4つの案の工事費を公表しています。4つの案は工事費が1,200億円~2,100億円と試算されており、費用対効果などハードルは高いものの、下越エリアと上越エリアのアクセス性の向上や一体感の醸成は、新潟県政の重要課題であり、羽越新幹線構想も視野に入れた政策の選択肢を提示したことに注目しています。
さて、今回は前月に引き続き、日本政府観光局(JNTO)バンコク事務所長としてタイで取り組んだインバウンド施策を振り返り、完結させたいと思います。そして来月は、いよいよ本コラムの最終回として、アイドル論をテーマとしたいと考えています。
前回の続き
【前回記事】「【コラム】「日本政府観光局バンコク事務所長の頃 ~所長として取り組んだことのまとめ①」元新潟県副知事・中国運輸局長 益田浩(2024年4月8日)
前回は、バンコク赴任後、タイのどの旅行事業者がどのくらい訪日旅行を販売しているのか、会社訪問や旅行フェアの実績などでリストアップし、有力な訪日旅行取扱事業者に対して重点的にVisit Japan予算等による支援や表彰をしたことまで述べました。これにより、有力な訪日旅行取扱事業者のモチベーションが上がり、効果的な施策が実施できたと考えています。
次に、旅行事業者との意見交換をしている中で、タイの訪日市場もこれまでのような団体旅行中心の旅行形態から、徐々に海外個人旅行(FIT)に移行しつつあるのではないかと気づきました。JR Passの販売実績が顕著に伸びていたのです。格安航空会社(LCC)の日本路線就航やタイ経済の成長に伴う所得増で、個人単位でも日本を訪問する環境が整いつつありました。
これまで、バンコク事務所では、おおむね2月と8月の年2回開催されるTTAA(タイ観光サービス協会)主催のTITF旅行フェア(Thai International Travel Fair)において、日本から参加した地方自治体、観光協会等とともに、Visit Japanブースを出展して、日本の観光情報を提供するなど、訪日旅行商品の販売支援を行ってきました。しかしながら、TITF旅行フェアは団体旅行の販売が中心であり、FITのニーズに十分応えられていないとの懸念がありました。
そのため、バンコク事務所の主催で、2011年から訪日FITに特化した旅行フェアを開催することにしました。これも初めての試みなので、開催場所の選定や日本からFIT向きのブース出展者の確保に苦戦し、私も連日、ブース出展の依頼をしていたことを覚えています。
結局、日本からのブース出展は目標の10に届かず、タイの日系旅行事業者などにお願いして、何とか旅行フェアの形をつくった感じでした。開催場所もサイアム・パラゴンという高級百貨店ではありましたが、あてがわれたスペースは通路でした。難産のFITフェアでしたが、販売実績も来場者数も予想以上の成果を挙げ、手応えを感じました。
その後、新型コロナウィルス感染症の流行による休止があったものの、今年11月には第16回FITフェアを開催する予定であり、開催場所も同じサイアム・パラゴンの5階(メインフロア)とのことで、しっかりと定着したようです。2023年10月に開催された第15回FITフェアでは、日本側58団体、タイ側40団体の合計約100団体が出展して、延べ約4万6,000人が来場したとのことで、TITF旅行フェアのブース規模と逆転していますね。隔世の感があります。第1回にブース出展した方々を改めて表彰したいくらいですよ。
その他、タイでもSNSが登場しており、徐々に訪日旅行の情報収集に使われ始めていたため、タイ語のFacebookを初めて開設し、日本の観光地や観光施設などの情報をタイ語化して毎日掲載しました。これも訪日FITに役立ったと思います。
まとめ
これまでバンコク事務所長としての仕事を振り返ってきましたが、懐かしいですね。当時の画像を見ていると時間が経つのを忘れてしまいます。もう10年以上も前になってしまいました。当時、タイの日本人学校に通っていた長女が今は大学生ですから。
着任した2010年はバンコクの政治騒乱、翌2011年は日本の東日本大震災とタイの大洪水が発生し、微笑みの国に赴任したはずが、まさに当時のタイ政府観光局のキャッチフレーズであるAmazing Thailandを体感することになったのですが、2012年は平穏な年となり、訪日タイ人数は順調に伸びていきました。2010年に約21万5,000人、2011年は約14万5,000人であった訪日タイ人数は、2012年には約26万1,000人となっています。
いろいろな出来事があってもタイでの生活は楽しく、家族もタイを満喫していたので、当時の観光庁長官に対して「赴任期間を5年もらったら、50万人は超える」と豪語し、タイの滞在期間を延ばそうとしたことを覚えています。
残念ながら功を奏せず、2013年半ばで帰国することになりましたが、同年6月から、日・ASEAN友好協力40周年を契機としたタイ国民への査証免除が決まったこともあり、2013年の訪日タイ人数は約45万4,000人、2014年には約65万8,000人となるなど、早くも50万人を突破しました。ちなみに、2019年には約131万9,000人です。
このように急成長した訪日タイ市場の立ち上がりの段階で、3年半、最前線で様々な取組ができたことは望外の喜びであり、この時期は、私の30有余年の社会人経験の中で、白眉と言っても過言ではありません。引き続き、タイとの縁は保っていきたいです。タイ語検定は3級(簡単なタイ文字が読めるレベル)を取りましたし。
最後に、当時の画像を紹介しながら、今回は終わりとします。
益田浩昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。
【前回記事】
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