【第10回-②】「関川下流域に前方後円墳があった!」くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年 石塚正英(東京電機大学名誉教授)

前回(第10回ー①)はこちら → 関川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる

10-2.関川下流域に前方後円墳があった!

写真①一号墳(頸北歴史研究会高橋勉氏提供)

さて、時代は下って2020年3月17日、頸北歴史研究会メンバーの佐藤春雄氏が上越市吉川区町田で前方後円墳を発見し、その後「町田古墳群」と称することにしました。新発見の前方後円墳(初期古墳)は、造営当時はおそらく大きな潟湖に面しており、河川で日本海と結ばれていたことでしょう(写真①、一号墳、頸北歴史研究会高橋勉氏提供)。

頸北歴史研究会のおかげで、私が長く探していたエビデンスが、古代クビキ沿岸汀線航路の物証が、ついに出てきたのです。紀元3~4世紀にはこの港が、関川遡上のルートで信濃・上毛野方面への人流・物流の拠点となっていた可能性が高まりました。

関川上流域に入る妙高市関山の関山神社には、朝鮮三国時代の金銅菩薩立像が神体として鎮座しています。歴史研究者の上田正昭氏はこう記しています。「新潟県の関山神社の御神体となっている金銅菩薩立像も私は渡来仏と考えている。

この菩薩立像も眉に刻線を深く刻み込んでいる特徴が、古代朝鮮の仏像と共通している。本像の背面の型式も法隆寺夢殿観音像にきわめて近い。(中略:引用者)このように本像は、これまで知られている朝鮮三国時代の仏菩薩像中、わが国の飛鳥時代の諸像と最も共通点をもつ像として重要である」(上田正昭「古代の日本と渡来の文化」埴原和郎編『日本人と日本文化の形成』朝倉書店、1993年)。

『上越市史 資料編1』には、以下の記述が読まれます。「四世紀から七世紀の古墳が、関川左岸の難波山東山麓に観音平第一号墳に始まる頸城西部古墳群がある。(中略)関川右岸の頸城東部古墳群には、新潟県で唯一の後期の前方後円墳、菅原三一号墳があり、首長墓と理解できる。同時に、明治時代に一〇八基の古墳が存在した菅原古墳群は、頸城東部古墳群で最大の規模を誇る古墳群でもある」。

弥生時代から古墳時代にかけて、これだけの歴史を刻んでいる関川流域に朝鮮半島から移住者があって、少しも不思議ではありません。その移住者の中には、関山神社の神体「金銅菩薩立像」を持参したものがいたと想定して、少しも違和感はないわけです。さらには、関川を源流まで遡上して信濃・上毛野へと向かったグループがいたと想定して、さほどの飛躍はないです。

また、日本古代史研究者の田中史生氏は、『渡来人と帰化人』(角川選書、2019年)でこう記しています。「興味深いことに、これら各地の渡来人の活動痕跡を示す考古資料には、朝鮮半島とのつながりを示す系譜に、それぞれ異なりや特徴がある。このことは、渡来人が一旦王権のもとに集められ、その後、各地に分配されたのではなく、各地の首長層が、それぞれに朝鮮半島諸地域との関係を築いて、彼らを独自に本拠地に呼び寄せていたことを示している」。

田中氏の分析に私は納得できます。あとは、町田古墳群に関係するクビキの首長層と半島為政者との間に生まれた交流ルートとは相対的に別個の民間ルートを、私なりに探り当てることが肝心となってくるのです。古代東国文化形成の動脈、古代クビキ沿岸汀線航路・関川水系遡上ルートの探索です。

(☆)参考資料:「信濃・上野古代朝鮮文化の関川水系遡上という可能性」、『NPO法人頸城野郷⼟資料室学術研究部研究紀要』ディスカッションペーパー、Vol.6/No.20 2021.09.01.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kfa/6/20/6_1/_article/-char/ja

(第10回ー③に続く)

石塚正英

1949年生まれ。18歳まで頸城野に育まれ、74歳の今日まで武蔵野に生活する。現在、武蔵野と頸城野での二重生活をしている。一方で、東京電機大学理工学部で認知科学・情報学系の研究と教育に専念し、他方で、NPO法人頸城野郷土資料室を仲町6丁目の町家「大鋸町ますや」(実家)に設立して頸城文化の調査研究に専念している。60歳をすぎ、御殿山に資料室を新築するなどして、活動の拠点をふるさと頸城野におくに至っている。NPO活動では「ますや正英」と自称している。

 

【連載コラム くびき野の文化フィールドを歩む】
#9-1. 信濃川を遡る古代朝鮮文化の足跡をたどる

#8-1. 前曳きオガが高麗時代の半島にあった!

#7-1. 胸張る狛犬獅子像―朝鮮半島とくびき野の交差点

#6-1. 小野小町の死生観

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