【コラム】「ジープ島物語」ここには都会にある物は全てなく、都会にない物が全てある 第3回「船出、東京から世界へ」 ジープ島開島者吉田宏司(新潟県上越市在住)
私はようやく大学に入り、井の頭公園に歩いて行ける三鷹台に引っ越した。いよいよ大学生活が始まるわけだが、経営学部の授業は全く面白くなかった。
しかし、大学がキリスト教の大学だったため、1年生の時の授業に「キリスト教概論」という必須のものがあった。私の田舎の家は曹洞宗で、小学生のころによく祖父にお寺に連れて行かれたのだが、キリスト教には全く縁がなかった。しかし、授業に出てみると、語られる内容がどこか物語風で少し興味が湧いた。
実は私は浪人時に1度だけ不思議な体験をしていた。受験の失敗で思い悩んでいた冬のある日の深夜、私の足元にマンサイズの白光体が三日三晩立ったことがあった。それはたいへん暖かく包み込むようなものであった。そのことがあり、この「キリスト教概論」だけは授業に出るようにしていた。
イエス・キリストとはどんな人だったのか? 神は存在するのか? また聖書に書かれてあることが本当なのか? そして何より私が見た白光体は一体何だったのか? そんな疑問が湧いてきて、いつしか学内でそんな話をすることが多くなった。しかし、そのような真理探究的なものを求める一方、大都会の東京の魅力に触れて、原宿でアルバイトしながらよく飲みに出かけた。
そして、2年目以降になると、試験の時以外はあまり授業に出なくなり、渋谷の明治通り沿いの会社でアルバイトをしていた。月曜から土曜までバイトして、日曜の休みには、よく鎌倉の材木座でウィンドサーフィンをやっていた。
ある日バイト先で海外の研修ツアーの欠員が出たので上司から行かないか?と言われ、初めて海外に行ける機会を得た。それは、ミクロネシアにあるロタ島(北マリアナ連邦)への旅であった。私は名古屋発でサイパンに行き、そこで小さなセスナに乗り換えてロタ島に入った。前日からワクワクする思いでほとんど寝ていなかったのだが、サイパンからロタ島へ向かう上空からの海は、今までで見たことのない美しい青さであった。空港からジープでホテルまで向かう途中は至る所がジャングルに囲まれ、まさに私が小学生の時に描いた南国のイメージそのものであった。
ヤシの木やバナナの木を見ながらホテルに到着し、昼食を済ませ午後から島内観光となった。観葉植物園で美しい花々を見て、島一番の美しいテテトビーチに行った時、寝不足の疲れが一気に出たので、ガイドにここで少し休んでもいいか?と断り、一人残っていたら、いつしかビーチの水際でぐっすり寝込んでしまった。そして、しばらくして潮が満ちて、突然水をかぶって飛び起きた。
すると目の前に西に傾いた太陽の眩しさの中、青く澄み切った海が銀色に輝き、私の足元近くには真っ青なスズメダイが数匹泳いでいた。驚きと感動の中、その光景を目にしながら、その時私は海の仕事に就こうと決心したのである。
そして、その翌年私はアルバイトを辞め、そこで培ったノウハウでスキューバダイビングの新たな仕事を始め、全国からダイバー達を集めてクラブを作り、精力的にダイビングスポットを求めて、世界を周り始めたのである。そして、ギリシャ、フランス、セイシェル、エジプト、東南アジア、オーストラリア、ミクロネシア、ハワイ、ニューカレドニア、アメリカ、カリブ海、メキシコ、南米のホンジュラス、ガラパゴスなどに出かけたのである。
それは、七つの海を求めて、また同時に「青」を求めての旅であった。
吉田宏司
随筆家、海洋研究家、ジープ島を運営する代表者。1956年新潟県上越市生まれ。青山学院大学卒業後、ダイビングクラブを主宰しながら、約15年にわたり、ダイバーを世界中に案内し、自身も世界中の海に潜る。
1997年、40歳の時に少年時代からの夢だった「無人島を開拓して、ゲストに大自然を感じてもらう宿泊施設を建てる」と一大決心。1周275歩直径34mの無人島「ジープ島」に入島(グアムから飛行機で1時間半南下したミクロネシア連邦、トラック環礁に位置する島)。ダイナマイト漁で破壊されたサンゴの海を15年かけて再生させ、魚やイルカが集まる島へと成長させた。
シープ島は2009年に放送されたテレビ番組「世界の絶景100選」で第1位に選ばれたほか、2020年元旦放送のテレビ番組「なるほど!ザ・ワールドから新年あけまして!!奇跡の絶景スペシャル〜」に出演、雑誌「ブルータス」の表紙にもなるなど、新聞、テレビ、雑誌から多くの取材を受けている。また、世界海洋ボランティア協会の会長、海洋自然学校の創始者でもある。現在はジープ島にも行きつつ、妙高山を中心とした吉田自然塾を主宰している。
著書に「もしあなたが、いま、仕事に追われて少しだけ解放されたいと思うなら。」(KADOKAWA)、「South-ing JEEP ISLAND」(普遊舎)がある。