【第12回①】「芭蕉さん、ようこそいらっしゃいましたね!」くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年 石塚正英(東京電機大学名誉教授)

前回(第11回)はこちら→11回-1「くびき野水車発電のフィールドワーク」くびき野の文化フィールドを歩む―1990年~2023年

12-1.芭蕉さん、ようこそいらっしゃいましたね!

上越市公文書センターホームページ「松尾芭蕉が上越市域に残した足跡」によると、『奥の細道』で有名な松尾芭蕉は、1689(元禄2)年7月上旬(新暦8月下旬)、上越市に来訪し、なんと現在私が住居を構えている高田地区に3泊したとのことです。

滞在先が「寄大工(よりだいく)町の医師細川春庵方」とされているのですから、間違いありません。その根拠について、上越市作成の別の資料、2019年に開催された第23回上越市公文書センター出前展示会資料には、以下のように記されています。

曽良が随行日記に「細川春庵」と記した人物について、大正3年(1914)発行の『(旧版)高田市史』では、高田大工町に住んでいた細川昌庵(升庵又は青庵とも、俳号は棟雪)だとしています。

一方、町年寄を務めた森家が記した「高田火災記」には、延宝4年(1676)3月29日に発生した大火災にかかわり、「寄町(よりまち)細川升庵」という記載があります。

当時、高田には「本(ほん)大工町(仲町4)」と「寄(より)大工町(仲町6)」の2つの大工町があり、寄大工町の通称が寄町でした。したがって、芭蕉が宿泊した春庵の邸宅は、寄大工町にあったと考えるのが妥当です。

以上の考察に加えて、私は、上越市寺町3丁目の高安寺に残る芭蕉追善供養石碑に行きあたりました。

2022年5月14日と15日に、上越市高田地区の芭蕉滞在現場とされる同市寺町3丁目の高安寺(曹洞宗 海潮山)で調査を行いました。百目鬼(どうめき)洋一高安寺住職に案内をうけ、境内右手の叢に佇む「はせを翁」石碑の前に立ちました。

高安寺の記録によると、当該の石碑は、芭蕉がこの地を訪れてから13年後の1702(元禄15)年に建立されました。頸城野ドキュメントライブラリー理事の佐藤秀定氏は、2023年3月30日、当該石碑を丹念に調査し「翁」の右上に「者世越」すなわち「はせを」の文字を確認したのです(写真は佐藤氏撮影)。

このように調査・考察してみることによって、確定的な事柄が幾つか浮かんできました。

①芭蕉翁と随行の曾良は元禄2年7月8日に高安寺に立ち寄っている。

②それを記念してか芭蕉死歿(元禄7年10月12日、新暦11月28日)を偲んでか、元禄15年8月に追善碑が建立されている。

③今町(直江津)から高田に移動してきた芭蕉一行は、少なくとも高安寺境内の観音堂で一服したのち、東に徒歩で10分ほどの寄大工町(現仲町6丁目)の細川春庵宅に向かった。

ところで松尾芭蕉は、寄大工町―現在の仲町六丁目―の医師細川春庵亭に3泊し、俳諧を催し、「薬欄にいづれの花を草枕」を詠みました。

この出来事は、私が生まれた仲六の誇りです。ぜひともわが町家雁木でも芭蕉の来訪を記念したいと思いました。

そこで市民各位に以下の提案を致しました。「医師細川春庵宅の薬欄つまり薬草園にあやかって、雁木通りに「芭蕉ハーブ」と銘打った植木鉢かプランターを置き、行き交う人たちに自然色の香りをプレゼントしましょう。

裏手にハーブ花壇をつくるのも趣がありましょう。2024年は芭蕉生誕380年、没後330年に当たります。2025年には上越市市制20年の画期を迎えます。具体的には市民有志の方々が銘々に好きなハーブを植えた鉢やプランターを個人負担で用意し雁木や玄関前に置き、「芭蕉ハーブ」と書いた銘板(雨にも大丈夫なもので自由に作る)を立てる。あとは枯れないように世話をする、それだけです。

石塚正英

1949年生まれ。18歳まで頸城野に育まれ、74歳の今日まで武蔵野に生活する。現在、武蔵野と頸城野での二重生活をしている。一方で、東京電機大学理工学部で認知科学・情報学系の研究と教育に専念し、他方で、NPO法人頸城野郷土資料室を仲町6丁目の町家「大鋸町ますや」(実家)に設立して頸城文化の調査研究に専念している。60歳をすぎ、御殿山に資料室を新築するなどして、活動の拠点をふるさと頸城野におくに至っている。NPO活動では「ますや正英」と自称している。

 

【連載コラム くびき野の文化フィールドを歩む】

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