【コラム】「ジープ島物語」ここには都会にある物は全てなく、都会にない物が全てある 第6回「ジープ島との出会い」ジープ島開島者・吉田宏司(新潟県上越市出身在住)

当時のジープ島での吉田宏司氏

私が初めてジープ島に上陸したのは、1993年くらいだろうか?その日まっ青な快晴のベタ凪の海の中、沈船の富士川丸に潜った後、ジープ島(旧ファナンナン島)に上陸した。

当時は椰子の木15本の周りはビーチがあるだけで、まさに日本でイメージしていた南国の無人島がそこにあった。船上から見える光景は実に見事で、真っ平な海面からまっ青な海底が見え、椰子の木が逞しくそびえ立ち、島の周りには、数羽のまっ白なアジサシが飛んでいた。

ワクワクする思いで弁当を持って上陸したのを覚えている。弁当を食べ終わり、ペットボトルの水を片手に島の周りを散策してみた。歩き始めた辺りは、本当にまっ白な砂浜で、そこに澄み切った水が寄せては返し、少し海に入ってみると、青いスズメダイが数匹見え隠れしていた。

更にビーチを進むと遠くに白い塊がいくつも目に入った。何かと思って近寄ってみると、それはサンゴの瓦礫だった。進めば進む程、その瓦礫の数は増していく。そこには大きく太い枝サンゴの瓦礫が大量に打ちあがっていたのである。

私は近くにいた現地人を呼んで、「このサンゴの瓦礫は台風か何かでやられたんだろうか?」と尋ねると、全く別の答えが返ってきた。

「台風なんかじゃないよ!ダイナマイト漁だよ!!この島のオーナーは、ダイナマイトを投げて魚を捕っているんだよ」と…

ミクロネシア連邦チューク州にあるジープ島

今度は海中を調べてみようとボートに戻り、マスクとフィンを付けて、島を1周することにした。我々がボートをつけた辺りは小さな水路になっていて、まん中がまっ白な砂地で、その両脇には、今まで見たことのない美しいサンゴの群落が広がっていた。その光景をマスク越しに見ながら、私はたいへん感動したのを今でも鮮明に覚えている。

しかし、数十メートル離れた東側に回り始めた辺りから、明らかにダイナマイトで爆破されたようなサンゴの死骸が至る所にあった。爆破された周りに多くのサンゴが飛び散っていて、大きな穴が空いていた。そのまま南側に行き、西側まですべて見たが、どこも同じであり、島の周りの3/4は壊滅状態だった。私はその光景にたいへんなショックを受けた。

それから午後のダイビングを終え、ホテルに戻り、シャワーを浴びてバーにいき飲んでいると、またあの島の事が気になり出した。「何とかサンゴを育て、島の周り360度を美しいサンゴに囲まれた状態に戻せないか?」と滞在中ずっと考えていた。

それから日本に戻り、東京吉祥寺のマンションの近くの井の頭公園を毎日散歩しながら、「あの島のサンゴをどうしたものか?」と考え出し、日に日に私自身の楽園構想が芽生えて行ったのである。

そして、サンゴの再生、生物の保護を考えつつ、当時日本はバブル崩壊後で多くの人が行き場を失い、精神的疾患者が増えていかざるを得ないだろうと思い、日本人が訪れて心がいやせる場所にならないか?と考え始めたのである。

そして、何度も何度もサンゴの再生と生物保護と人の心をいやす場所(心の楽園)という事を考えた結果、私自身がその島に住む以外方法はない!!という結論に至り、これが赤道直下の小さな無人島に住むことになったいきさつである。

吉田宏司

随筆家、海洋研究家、ジープ島を運営する代表者。1956年新潟県上越市生まれ。青山学院大学卒業後、ダイビングクラブを主宰しながら、約15年にわたり、ダイバーを世界中に案内し、自身も世界中の海に潜る。

1997年、40歳の時に少年時代からの夢だった「無人島を開拓して、ゲストに大自然を感じてもらう宿泊施設を建てる」と一大決心。1周275歩直径34mの無人島「ジープ島」に入島(グアムから飛行機で1時間半南下したミクロネシア連邦、トラック環礁に位置する島)。ダイナマイト漁で破壊されたサンゴの海を15年かけて再生させ、魚やイルカが集まる島へと成長させた。

シープ島は2009年に放送されたテレビ番組「世界の絶景100選」で第1位に選ばれたほか、2020年元旦放送のテレビ番組「なるほど!ザ・ワールドから新年あけまして!!奇跡の絶景スペシャル〜」に出演、雑誌「ブルータス」の表紙にもなるなど、新聞、テレビ、雑誌から多くの取材を受けている。また、世界海洋ボランティア協会の会長、海洋自然学校の創始者でもある。現在はジープ島にも行きつつ、妙高山を中心とした吉田自然塾を主宰している。

著書に「もしあなたが、いま、仕事に追われて少しだけ解放されたいと思うなら。」(KADOKAWA)、「South-ing JEEP ISLAND」(普遊舎)がある。

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