「最悪のタイミングの黒田バズーカ転換」(個人投資家 元財務官僚・元衆議院議員 石崎徹)
新潟県をはじめ日本海側で警報級豪雪に見舞われた昨日20日正午、日本銀行の金融政策決定会合で、10年間に渡る大規模緩和の実質的な転換が発表されました。その後、日経平均株価は急落、ドル円も急落、今年の歴史的な為替介入以上の円高効果を発揮しました。
今回の決定を一言で言うと、『タイミング悪すぎ』です。昔の志村けんさんと加藤茶さんのコントにもありましたが、「バズーカ砲が打ち続けられている中で、バズーカの方向をいきなり動かす」といったようなものであり、大変危ないものです。
①日経平均株価は、「底抜け」リスク高まる。
下記チャートは日経平均株価のチャート図ですが、実は先週あたりから、米国をはじめとする各国経済の景気後退リスクが市場に織り込まれ始めており、日経平均は28000円代を維持出来ず、27500円まで割り込んでいました。そして、昨日の黒田バズーカ転換で一気に26500円を割り込むところまで来てしまいました。年末には株価が上がるジンクスである、「掉尾(とうび)の一振」は完全に空振りになりましたし、テクニカル分析的に、26000円割れも覚悟しなければならなくなりました。
今回大変勉強になったのが、今の日銀は「株式市場」・「市場センチメンタル」は全く無視している、ということでしょう。
例えば、日経平均28000円台で今回の転換を行い下落のバッファーを確保しておく戦術や、FRBのように一部マスコミに転換の情報を流して反応を見るといったジャブを打ってみる、といった方法であれば、今回のような底抜けに向けた26500円を割り込むことはなかったでしょう。
先週からの下落に、ダイナマイトを増し増して、バズーカを下方向に打った形となりました。(苦笑)。
これまで、株価下支えのためのETF購入なども市場とコミュニケーションを取りながら行ってきた日銀が、最後の締めで、株価の下落に火をつける形になったのは、今までの日銀の努力は何だったのかという印象です。もはや日銀の頭の中には、任期中に早めにやっておかないと責任問題になる、といった極めて俗人的な判断しかないということでしょうか。
特に、今月ボーナスが支給され、またNISA拡充のニュースなどを踏まえて、昨日までに株式を購入していた個人が気の毒です。
ここまでは株式市場の話なので、株式投資を行っていない人にとっては関係ない話かもしれませんが、以下のように投資をしない全ての人にとっても最悪のタイミングだったのです。
※なお、私は地方銀行株を保有しており、昨日の日銀発表後に急騰しましたが、今後の景気後退で銀行も貸出先の倒産リスクなどが増大するとみて、昨日全て銀行株は売却しました。
②円安対策としては効果があったか?
今回日銀の頭にあったのは、もしかしたら為替市場だったのかもしれません。確かに今回のバズーカ転換によって、円高に進むというのは、大変分かり易く、予想しやすい効果でした。案の定、一気に132円台まで円高が進みました。
ただ、米国やEUなどの金利と比べるとまだまだ日本は金利は低いので、これ以上の円高は見込まれません。むしろ、輸出入企業にとっては、為替変動リスクを踏まえて、外貨を調達するため、為替の変動幅が大きかったり、見通しが読みづらい、ということになりますと、それに備えた為替予約なども増大させ、更なるボラティリティーの増大に拍車をかけ、無駄なコスト増大に繋がります。
よって、円安対策としての効果はほぼないと考えて良いでしょう。
③家計や企業はどうなる?
一番罪なのは、いきなりの転換過ぎて、住宅ローンや、車のローンを抱える個人の生活設計に不透明感を増大させた、ということです。
これまで市場全体としては、年明け黒田総裁の後任が決まる2月、3月頃に徐々に政策転換の道筋が見えてきて、金利も徐々に上昇していく、という読みでした。
こうした漸進的な取組みは、金利に影響を受ける住宅業界、車業界、不動産業界にとっては、売る側も買う側も中期的、長期的な契約の設計がしやすくなり、リスクも分散させたりすることが出来ます。
しかし、今回のように、年末に不意打ちで金利上昇転換が発表されますと、それでは年明けには更なる金利上昇が見込まれるのではないか、上記の産業にとっては大きなダメージがあるのではないか、それはすなわち銀行の貸し出しにも影響があるのではないかといった懸念が急上昇します。また、多くの企業が銀行借り入れを行っていますが、各企業の投資計画や借入金返済計画の見直しをせざる得なくなる、などほぼ全ての企業にも急な対応が迫られてきます。住宅や車の購入を考えていた個人もこのような金利に影響を受ける大きな買い物を手控えるようになります。
100歩譲って、今回の転換がインフレ対策になる、という点を評価できるかですが、そもそも日本はインフレ率は低水準です。むしろ、世界的な景気後退が始まっている中、インフレ対策のための金利引き上げは、実質的なプラスの効果はほぼないと言えます。
④国の予算、税制が決まった後の転換であって、政府は何も出来ない。
そして、今週ようやく国の来年度の予算、税制が決定しますが、政府案にはこのバズーカ転換による経済対策は盛り込まれていません。負のインパクトは国民自身で対応しなければなりません。
なお、今回、日本国債の購入の上限も引き上げたり、ETF・REITの買い入れ方針は変更せずとも発表しましたが、それは経済効果的には殆ど効果がないもの考えて良いです。
以上から、市場も、個人も、政府も、今後の日本経済の先行き、株式・為替市場の見通し、家計・企業活動の見通しに対しては、不透明感の増大とマイナスの方向を意識せざるを得なくなったということになります。
その中で、今後の我々が取るべきスタンスは、金利上昇を前提とした生活設計です。ざっくり書けば、以下でしょうか。
1、金利上昇に備えた対応を早急に取る。(金融機関と早期の相談)
2、景気後退リスクに備えて、支出管理を丁寧に。
3、金利上昇に特に弱い産業への株式投資は控える。
4、FX投資は変動リスクが高すぎるため暫く控える。
5、国や地方の支援策はすぐには出ないだろうが、注意深く発表を待つ。
むすびに
今回の日銀バズーカの転換は、「一言でいいから、年末年始の忙しくない時に、あらかじめ言ってくれれば良かったのに」と将来的な評価がされることになるでしょう。人間が関与出来ない、大雪のような天変地異ではないのですから。
また、近いうちにコラムを書かせて頂きます。良いお年を!
石﨑徹
元衆議院議員 個人投資家。新潟市生まれ。38歳。財務省職員を経て、2012年衆院初当選。3期務め、投資会社であるT.I.J株式会社を設立。日々世界中の市場をウォッチしながら投資活動を政治活動の傍ら続けている。投資テーマのYoutube番組「当選党ファンド」も主催。