「およそ30年ぶりに『ドルヲタ』(アイドルオタク)になったきっかけ」 新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩
新年明けましておめでとうございます。先行きが不透明な環境下ではありますが、令和5年が皆様にとって素晴らしい年となりますよう、お祈り申し上げます。
新年最初の話題として何が良いか、考えていましたが、年末から新年にかけて、瀬戸内海7県を拠点とする女性アイドルグループ・STU48の公演に立て続けに行っており、頭の中が「船に乗っている」(もともとSTU48はSTU48号という船上劇場を舞台に活動していたので、STU48のファンになることをオタク用語では「船に乗る」と言います。)状態なので、アイドル論を書いてみます。と言っても、私は人気がある坂道系とは無縁で、AKB48グループしか分かりません。振り返ってみれば、アイドル全盛期の1980年代に中学・高校時代を過ごし、その頃はしっかりアイドルの追っかけをしていましたが、その後、大学生活や社会人生活を送る中で完全に遠ざかっていました。アイドル熱が再燃することになったのは新潟に拠点があるNGT48を「推す」(応援する)ようになった新潟勤務の2年目です。新潟を離れ、2年間の東京勤務を経て、広島勤務となった現在は、引き続き、NGT48を推しつつ、国土交通省から海と船の魅力を伝えるアンバサダーに任命されているSTU48も推しています。
およそ30年ぶりに「ドルヲタ」(アイドルオタク)になったきっかけから触れていきましょう。平成29年7月に新潟に赴任した当初は、そもそもNGT48を知りませんでした。同時期に東京から赴任した副知事がいて、彼は既にその分野に相当な知見がありました。地元紙の着任インタビューで「Maxとき315号(NGT48の代表曲のひとつ)を聴きながら、新潟に赴任しました」と答えているのを読み、当時は「いい年をしてすごいな」と正直かなり冷ややかに受け止めました。今となっては大いに理解できます。これも人間的に成長したということにしておきます。
当時、NGT48はお披露目から2年、同年5月~6月に開催された「AKB48 49thシングル選抜総選挙」では、荻野由佳の5位をはじめ、80位以内に10人がランクイン(前回は2人)するなど大きく躍進をしており、多くの企業とのタイアップやテレビの単独冠番組も登場するなど、新潟県内で大いに盛り上がっていました。新潟県庁で観光やまちづくり、にぎわいづくりを担当していた私は、この熱気は一体何だろうと気になります。調べてみると、NGT48はAKB48の姉妹グループとして、AKB48(東京都・秋葉原)、SKE48(愛知県・栄)、NMB48(大阪府・難波)、HKT48(福岡県・博多)に次ぎ、国内5番目に結成されていました。札幌でも仙台でも金沢でもなく、新潟が選ばれているのです。新潟に決まった理由は諸説あり、私にも何が決め手となったのかは分かりませんが、とにかくこれはすごいことだと思いました。メンバーの出身地も新潟県内の各地からに加え、東京都、神奈川県、兵庫県、富山県、長野県、青森県など多岐に渡っており、若い女性たちがわざわざ新潟を舞台として選び、自分の夢を叶えようとしているのです。ストーリーとしても、新潟のアピールになるなぁと感じました。実際、2期生のオーディションは新潟市の全面的な協力を受けて実施されました。ときどき、新潟県の方は「新潟には何も無いよ」と口癖のように言ってしまいますが、謙虚さ故と分かりつつも、私はこの言い回しを聞くのが嫌いです。私は札幌市にも住んでいたので、「札幌には古町芸妓もNGT48もいなかったよ」と向きになって反論したこともあります。年が明けた平成30年には、私の中でかなりNGT48が気になる存在になっていました。ただし、この頃はまだメンバーの名前を知らず、顔も覚えられず、もちろん、「推しメン」(自分が応援しているメンバー)もおらず、応援に不可欠なサイリウム(ペンライトのこと。メンバー毎に通常2色の応援する色が決まっており、「推しサイ」と呼びます。)などのグッズも持っていません。
私がいよいよ「沼に入った」(好きなものにどっぷりはまった)のは、同年11月下旬からです。時間がかかっていますよね。なぜNGT48がこれだけ人気なのか、実際に自分の目で観てみたいと、インターネットで手続をし、抽選でチケットを手にして、万代にある専用劇場を訪れることにしました。振り返って考えると、県庁の職員にもNGT48のファンはいるので事前に情報をよく聞いておけば良かったなと思いますが、そのときはほぼ予備知識無しに劇場に足を踏み入れました。てっきりアイドルのファンは中学生や高校生が多いのだろうと勝手に想像していましたが、そこにいたのはどうみても40代~60代のおじさんで、一緒にいても年代的に全く浮きません。むしろ、周りのファンは自分の推しメンの生誕シャツや生誕タオル(メンバーの誕生日にちなんだシャツやタオル)、サイリウムによりできるだけ目立とうとしているので、普通の格好だと埋没してしまいます。公演が始まると、メンバーは目の前で、汗を流しながら全力でパフォーマンスをし、その当時はまだ声が出せたので、ファンはメンバーに負けじと大声で叫んでいます。いつの間にかその熱気に当てられていました。百聞は一見に如かず、やはり現場は大事です。
NGT48のファンはSTU48と比べて、やや男性比率が高いと思いますが、中高年の男性が推しメンを応援するために劇場まで来て、アピールするためにグッズを買い、公演後は近くの飲食店にファン同士で集まって、公演の振り返りのためのヲタ会(飲み会)をします。ファンは新潟県内だけでなく、関東圏やその他の地域からも劇場に来ていて、上越新幹線や高速バスなどの利用にも貢献しています。いろいろ観察していると、新潟の知名度が上がることはもちろん、グッズ代、飲食代、交通費など関連消費による経済効果も大きいことが分かります。さらには、ファンは推しメンへの応援が日々の生きがいになって元気だし、ヲタ友もできて居場所が確保されるなど、福祉の役割も果たしているなぁと気づきました。私は「NGT48は新潟の財産」だと申し上げたことがありますが、これらの理由によります。次回はアイドル論の続きで、「沼にはまる」とどうなるのか、を書いてみたいと思います。
益田浩
昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。