地方創生の施策。「残念な地方」にしないために考えたい (特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長 サイボウズ株式会社勤務 竹内義晴)

ボクは現在、妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会という法人で、ワーケーションの事業に取り組んでいます。その取り組みが評価され、2023年1月11日、内閣府で行われた地方創生テレワークアワードにて、地方創生担当大臣賞を受賞しました。

「地方創生テレワークアワード」は、会社を辞めずに地方に移り住む転職なき移住、ワーケーションなどによる関係人口の増加、東京圏企業による地方サテライトオフィスの設置など、都市部から地方への人の流れを加速させ、人口の流出防止、地方での雇用、新規ビジネスの創出など、多様な形で地方の活性化に貢献可能な地方創生テレワークに先進的に取組む企業・団体等を表彰し、周知していくものです。

本賞を受賞できたのは、これまで携わっていただいたすべての方のおかげです。本当にありがとうございました。

一方で、「地方創生の施策」について課題に感じることもありました。そこでこの記事では、これまで取り組んできたワーケーションの施策と、地方創生の課題について考えてみたいと思います。

■妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会のワーケーションの取り組み

妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会では、ワーケーションの施策として、主に、以下の項目について取り組んでいます。

・都市部や地域の企業や団体と協働した、「企業研修型ワーケーション」の企画と実施
・滞在型市民農園「クラインガルテン妙高を活用したワーケーション」の推進
・仕事と子育ての両立が大変な在宅勤務者への「親子ワーケーション」

1つ目の「企業研修型ワーケーション」は、いわゆる、「合宿研修」のような形ですね。単なる合宿研修だと、妙高である必要がないので、いかに「妙高である必要があるか」を考えました。具体的には、東京が本社で、人材育成の業務を行っている日本能率協会マネジメントセンターと、妙高市にあり、日本で唯一のアウトドア専門学校である、NSGグループの国際自然環境アウトドア専門学校と協働し、常に変化する自然環境で、ビジネスのおける変化への対応力やリスクマネジメント力を育てる、ビジネスパーソン向けのプログラムをつくりました。

また、コロナ禍になり、都市部の企業を中心にテレワークによる多様な働き方が広がった一方で、コミュニケーションやチームワークに課題を抱いている企業が増えています。そこで、企業のご要望に応じて、コミュニケーションやチームワークがよくなるようなプログラムを提案する、合宿研修のコーディネートを行っています。

2つ目の「クラインガルテン妙高を活用したワーケーション」は、もともと妙高市にある滞在型市民農園「クラインガルテン妙高」を活用し、テレワークやワーケーションが利用しやすいようにしています。

クラインガルテン妙高は、「滞在型市民農園」とあるように、小さな農園に、戸建ての宿泊施設がセットになっている施設です。都市部をはじめ地域外の方が妙高に滞在することができます。農業体験が主な目的のため、これまで、最低滞在期間が1年でした。農業を実際に行うには、それぐらいの期間が必要なので。

しかし、テレワークやワーケーション利用の場合、最低利用期間が1年間だとハードルが高い。そこで20棟中の2棟、1ヵ月の短期利用を可能にしました。おかげさまで大変好評です。たとえば、ウインターシーズンですと、日中は会社の通常業務をテレワークで行いながら、週末は妙高近隣のスキー場に滑りに行く……といった使い方をしている方がいます。

3つ目の「親子ワーケーション」は、親と子が妙高に滞在して「親は仕事がちゃんとでき、子どもは妙高ならではの体験ができる」プログラムです。

在宅勤務の広がりで、時間と場所の制約のない、多様な働き方が広がりました。一方で、子どもがいる家庭の親は、自宅で仕事と子育てを両立しなければならなくなりました。特に長期休みは、親にとっては大きなストレスです。

そこで、妙高に来訪していただき、親は、通常の会社の業務ができるように、お子さんを安全な環境でお預かりします。お子さんには、せっかく妙高に来訪していただいたのなら都市部では経験できない「妙高ならでは」の体験をしてほしい……。そこで、国立妙高青少年自然の家と協働し、雪遊びや自然体験ができるプログラムに仕立てました。おかげさまで、親子ワーケーションも大変好評です。

■簡単ではなかったワーケーションの事業化

このたび、地方創生担当大臣賞をいただきましたが、これまでの道のりは、決して簡単なものではありませんでした。もっとも難しかったのは、「ワークとバケーション」という言葉のイメージとどう関わるかです。

ワーケーションという言葉が広がったのは、2020年7月、政府が「コロナ禍で低迷した観光需要の平準化や新たな旅行機会の創出」と伝えたのがきっかけです。そうです。「ワーケーション=観光」だと伝えたのです。実際、ワーケーションは「ワークとバケーションを組み合わせた造語」「観光地やホテルなどでテレワークをしながら休暇や観光を楽しむ」などのように伝えられています。

しかし、多くの日本人にとって、この働き方はあまりイメージがわきません。仮にできるとしたら、経営者やフリーランサーなど、時間と場所の裁量がある、ごく一部の人だけでしょうか。ちなみに、こういった層は全労働力人口の約5%です。ほとんどの人ができません。

仮に、多くの人ができるようになったとしても、企業で働く人の場合、上司の許可をとらなければなりません。「来週、ワーケーションに行っていいですか? 仕事しながら観光を楽しみます」といったら、多くの上司はOKとは言わないでしょう。

そこで、私たちはワーケーションを、企業やビジネスパーソンが「業務として行くことができる」ことを重視して作ってきました。上司や人事などに「妙高に行くんです。仕事で」と胸を張って言える。そうして作ってきたのが、「企業研修型ワーケーション」や「親子ワーケーション」だったのです。

けれども、企業に提案に行けば、いわゆる「ワークとバケーション」のイメージに、「ワーケーションですか? あぁ、うち、そういうのはいいんで」と言われます。これには、本当に手こずりました。「この取り組みで、本当に大丈夫なのだろうか」――ワーケーションの取り組みをはじめて、そんな不安が絶えませんでした。チームの中でもよくケンカしました(笑)

それでも、今回こうして、地方創生担当大臣賞をいただくことで、「その方向でよかったんだよ」とお示しいただいたような気がしています。

■「地方創生」という取り組みと「横展開」という課題

今回、地方創生テレワークアワードの授賞式で、実は、審査員の方から「横展開に課題はあるかもしれないが、将来の期待値を込めて」というコメントがありました。

この、「横展開に課題がある」というのは、ボクは誉め言葉だと思っています。なぜなら、「横展開に課題がある」ということは、「他では簡単にマネできない」ということでもあるし、むしろ、それを意識して取り組んできたからです。

行政の近くで仕事をしていると、よく「横展開」という言葉が出てきます。ひとつの成功モデルを作って、それを横展開する。そうすれば、地域全体が活性化する……行政的な視点で考えると、このような視点もとても大切だと思っています。特に、教育をはじめとして、市民サービスに関することならば、特にそうでしょう。

一方で、事業の場合、簡単にマネができる内容だと、高付加価値を持っていた商品の市場価値が低下してしまい、商品価値やブランド力などが薄れ、どこにでもあるような一般的な商品になってしまいます。それは、ビジネス的な戦略から考えると、むしろ、ネガティブな要因になります。

もちろん、「この市場を独占するんだ!」といった意地悪をしたいわけではもちろんありません。人口減少をはじめ、多くの地方では同様の課題があります。どうやって、地域内外の交流や関係をつくればいいのか? そういった課題感は多くの地域の方々と共有したいし、その解決策を一緒に考えたい。

では、地方創生を考えた時、何を共有し、何をマネすべきなのでしょうか?

■「残念な地方」にしないために

長野県白馬村に「白馬岩岳マウンテンリゾート」というスキー場があります。土地が本来持っている「隠れた資産」を発見し、磨き上げたところ、スキー場なのに夏の来場者数が8倍になって、冬の来場者数を超えるという結果が出ているそうです。

もっとも話題になったのが、「ヤッホー! スウィング」。白馬の大自然の中に、まるで飛び込んでいくようなブランコを設置したところ、多くの観光客が訪れるようになったそうです。

しかし、オープン4年で、さまざまな「モノマネ施設」ができたそう。このようなことが起きると「わざわざそこに行かなくてもいい」という状況になり、その地域の魅力が落ちてしまいます。

「横展開」という言葉には、このような危険が待ち受けています。

■マネをするなら「やっていること」ではなく「それまでのプロセス」

ちなみに、私たちが取り組んできたことの中には、多くの「うまくいかないこと」「難しいこと」が多くありました。

たとえば、妙高の自然環境を生かした「企業研修型ワーケーション」は、喧々諤々の議論や実験を重ねてきました。商品の売り方でもずいぶんと悩みました。今だって、必ずしもうまく行っていることばかりではありません。

また、「親子ワーケーション」だって、簡単なように見えて実は簡単ではありません。子どもたちの安全を担保しながらお預かりする。実際にやってみると分かりますが、それがいかにハードルが高いことか、私たちは身をもって経験してきました。

でも、それが実現できたのは、同じ思いを持った関係者や、協力してくださる事業者がいてくださったおかげです。想いや理想を共有し、「こんなことをやっていきたい」「こんな風にしたら実現できるんじゃないか」という議論を重ね、実際にやってみる中で、形作ってきました。

表面的にマネはできても、実際にやろうと思うと難しい……そうして作ってきた、他ではなかなかできないことに、ボクは価値があると思っています。こうしたことが実現できたのも、協力してくださったみなさんのおかげです。感謝の念に堪えません。

「ワーケーションが流行っているから箱物をつくる」「どうやら、企業研修や合宿型がいいらしい、うちもマネをしよう」「親子ワーケーションがいいっぽいから、うちでもやってみよう」――最初の入口は、それでもいいのかもしれません。でも、そういった「表向きのマネ」をしてしまうと、一時的にはいいかもしれませんが、おそらく、長続きはしません。

マネをするのは「表向きなところ」ではなく、「どのような考えに基づき、企画をしたのか」「どのようなプロセスを経て、実現にこぎつけたか」の「プロセス」ではないかと思うのです。

そもそも、地域の実情は、それぞれの地域で違いますし、リソース(資源)も同じではありません。同じようなことをしたくても、できないことも多いでしょう。それが現実です。

その中でも、地域の中にある隠れた資産を見つけて、それを生かして、どんな新たな価値を作っていくのか? さまざまな困難を、どんな工夫によって価値に変えていくのか? そこが大切なんだろうと思います。そういった横展開ならよろこんでご一緒したいし、それを実践し続ける地域のプレーヤーのみなさんとご一緒したいと思っています。

繰り返しとなりますが、今回の地方創生テレワークアワードでは、大変な賞をいただくことができました。これもひとえに、これまで関わってくださったすべての方のおかげです。本当にありがとうございます。

正直に言えば、まだまだうまく行っていないことも多々ありますし、理想と現実のギャップに、諦めてしまいそうになることもあります。それでも、これからも何らかの形になるように、実践を重ねていきたいです。

 

 

竹内義晴

特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長。「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。コミュニケーションや組織づくりの企業研修・講演に従事している。

2017年よりサイボウズ株式会社 にて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事のあり方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、2020年より一般社団法人妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会 にて、ワーケーションをはじめ地域活性化の事業開発にも携わる。

著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。

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