【三浦展の社会時評】 第3回 「ファミレスロボットへの疑問」

人手不足とコロナのせいで、対人的な職業を機械化・ロボット化する動きが加速化しているようである。

その一例がファミレスなどにおける店員の役割のロボット化である。注文した料理を運んでくるのがロボットなのだ。

運んできてもテーブルに載せるのはロボットには無理なので、客が自分で皿を取ってテーブルに載せるのである。

回転寿司ですでにだいぶ前から、寿司がベルトコンベアで運ばれてくるだけでなく、新幹線のおもちゃみたいなものに載せられて運ばれて来るという店があるが、いずれにしろ皿を自分の前に置くのは客の役割なので、ファミレスの場合、新幹線がロボットになったようなものである。

それと最近は注文もタブレットなどで客が自分で行う店も多い。ファミレスでも寿司屋でも居酒屋ですらそういう店がある。

この前一度そういう居酒屋に間違って入ってしまった。ペンみたいなものでメニューにタッチして注文する。すると厨房の方で何番テーブル、生ビール1、餃子1、注文頂きましたという機械の声がする。
居酒屋なんぞは威勢が良い店員の声が売りの一つのはずだから、機械の声で復唱されても気分が出ない。とはいえコロナ以来、あまり威勢の良い声を張り上げるのもはばかられるようになってしまったが。

しかし、以上どのような場合でも、食べ終わった食器はどうするかというと、これは人間の店員が片付けるのである。何だかおかしくないだろうかと私は思う。

注文を取ったり、食事をサーブしたりするのと、食器を片付けるのとどちらが人間的な仕事だろうか。どちらだとも言えないかもしれないが、食事をサーブするときは、お待たせしました、ごゆっくりどうぞとか言いながら、にこやかに、あるいは威勢良く店員がサーブするのが普通である。たとえマニュアル化されたファミレスであったとしても、そういう行為がまさに日本的なおもてなしの一つであろう。

食べ終わった後の精算もテーブルにいたままキャッシュレスで済ませることができる店もある。機械に表示された料金があまりに安いのでびっくりすると、3人で行ったので最初から割り勘を想定して料金を3分の1に表示していたのだった。これじゃ暗算の能力も衰える。
だが1万割る10の計算ができない学生がいると、ある四流大学の教授に聞いたのはもう15年も前である。今はもう1,000割る10も計算できないかもしれない。だから機械が自動で計算してくれるようになったのだろう。こうやってお店からどんどん人間が消えていくのである。

だが私は、注文を客にさせたり、食事を持ってくるのをロボットにさせておいて、片付けるのだけは人間だというのはどうもやはり解せないのである。それでいて日本文化は「おもてなし」の文化だとか言うのだからおかしくないか。

片付けでいうと、私はラーメン屋、街中華のカウンター席で食べるときも、食べ終わった食器をカウンターの上に載せるようにしている。カウンターの向こうの厨房に何があるかわからないから、もし余った汁などをこぼしたりするとかえって迷惑かもしれないと思いつつ、少ない店員で猛烈に忙しそうに働いている店主たちを見ると、食べ終わった食器をきちんと重ねてカウンターの上に載せるくらいはしてあげたいと思うのだ。

食べ終わった食器をカウンターの上に載せて下さいと紙に書いて貼ってある店もある。コロナで客が代わるごとに丁寧にテーブルや仕切りのアクリル板を消毒して拭かなければならない時代なので、食器の片付けを客がしてくれるのは店にとっても有り難いはずだ。

実は私の育った家では、両親が共働きだったせいか、食べた後に食器を流し台のシンクに持っていくのが義務であった。テーブルを拭いて茶碗や箸を並べるのも子どもの仕事であった。

昭和一桁世代の父はさすがに自分では何もしなかったが、子どもにはそうさせたのだ。だからか、私は食べ終わったあとに食器を片付けたり、テーブルを拭いたりするのが私のクセでもあるのだ。

そう思うと、ファミレスでも、片付けるのを客にやらせて、サーブするのはあくまで人間の店員が行うのも良いのではないかと思いついた。実際ファストフード店やスターバックスなどでは、片付けは客がする。しかも紙とプラスチックに分別し、あまったコーヒーは別に捨てるようになっている。紙やプラスチックの容器は軽いし、割れないからそれができるのかもしれないが、ファミレスの食器もそう簡単に割れるようなものではないだろう。

だから、食べ終わったらロボットがやってきて、そこに客が自分で食器を載せればいいのである。そして消毒液をシュシュッとして、使い捨てペーパーでテーブルを拭くくらい客がやってもいい。

その代わり注文を取るのも、サーブをするのもあくまで人間。人間らしく、日本人らしく、おもてなしの心で行う。だめかしら。

三浦展(あつし)

1958年新潟県上越市出身。82年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。著書に『下流社会』『永続孤独社会』『首都圏大予測』『都心集中の真実』『第四の消費』『ファスト風土化する日本』『家族と幸福の戦後史』など多数。

 

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