【三浦展の社会時評】 第7回「古着人気」

私は最近急に古着にはまってしまった。どれくらい最近かというと2022年11月からである。ごく最近だ。

なぜはまったかというと、知り合いの建築家の事務所で働く24歳の若手社員が古着好きで(雇っている建築家も40歳で高校生時代から古着好き)、彼が最近GAPの古着が流行っていると教えてくれたからである。

「え!GAPの古着が売れるの?」と私はビックリして何度も聞き返した。なぜなら私にとってGAPとは1990年代以降世界中でチェーンストア展開する安物ブランドであって、子供服は買っても自分のためには買わないというものだったからだ。
そのGAPの古着が人気なんて、どういうこと?と私は思った。そして高円寺の古着屋をまわってみた。たしかにいくつもの店舗でGAPが売られていた。そして古着屋のGAPはオールドGAPと呼ばれていることを知った。GAPに限らず古き良き時代のブランドはオールドGucciなどのように呼ばれるのである。

古き良きとはつまり、本国生産とか、布地も縫製も頑丈でアメリカらしかったということで、つまり世界中のショッピングモールや空港でチェーン展開する前の、まだそれほど大量生産されていない時代ということを意味するらしい。

私は今まで古着を5回くらいしか買ったことがない。仕事柄試しに買うのだがいつも後悔した。古着独特のにおいがしたり、生地が傷んでいて肌触りが悪かったり、ジーンズはそれまではいていた人の体型に合わせて変形しているので自分が着るとしっくりこなかった。

だが久しぶりに高円寺の古着屋に来たことだし、物は試しと何か買うことにした。いろいろな店を物色していると、欧米高級ブランドの古着の店が見つかった。ダナ・キャランの薄手のニットで帽子付きセーターがあった。試着するととても似合うので即買いした。

吉祥寺にも行ってみた。古着屋チェーンに入ると、ブランドコーナーがある。知ってはいるが新品だとすごく高いブランドは、古着でも3万円以上と高いが、その中にマルタン・マルジェラという個性的なデザイナーのセーターが2万円台であったので買うことにした。このブランドがこんなに安く買えるなら、新品を買う必要はないと今さら気づいた。新品を買うほうがむしろ妥協になる。

出身地の上越市高田の本町商店街にも古着屋ができていた。東京世田谷の三軒茶屋にある店の支店らしい。入ってみるとかなり質が良く、東京でもトップクラスと言える品揃えである。マルジェラも何着もあった。店主が上越の出身らしい。にわか古着ファンとなった私としては故郷に良い古着屋ができたことはとてもうれしい。百年以上の歴史を持つ映画館・高田世界館と料亭・宇喜世と共に大事にしたい店だ。

古着の魅力は一般に以下のようなことだと言われる。

1)一点物
もともと手作り、少量生産品である場合はもちろん、大量生産品であっても古着になることで、色のかすれ方などが無限に多様になり、一点物としての魅力を持つ。つまり一種の骨董品的な価値である。

2)掘り出し物
古着屋は、古本屋や中古レコード屋と同じで店内を散策して買わずに帰りやすい。新品の洋服店も買わずに帰れるが、買うことへのプレッシャーが強いはずだ。だから古着屋では客は安心して商品を「掘る」ことができる。まさに掘り出し物(セレンディピティ)を求めて時間を過ごせるのだ。探すという行為、探していた物とは違う物や、今まで見たこともない物、想像もしなかった物を見つける・掘り出すこと自体が面白いのである。

3)ストーリー性
最近は自分のおじいちゃん・おばあちゃんの古着を着る若者も多い。それがおばあちゃんの手編みのセータ—だったら、おばあちゃんの家族へのかけがえのない愛情を感じて服を着ることになるだろう。知らない人の来ていた服でも、服をつくった人や着た人とのつながりを感じられことが魅力なのである。

4)店主・店員の解説力
個人店の古着屋の場合、店主の目で商品を厳選して仕入れている。店主はこの商品はここが良いが、ここが悪いとか、いつの時代のこのブランドは質もデザインも良いとか、いろいろな商品知識が豊富である。そうした店主との会話により客がさまざまなうんちくを手に入れることができ知的な満足感が得られる。

5)コスパ
古着は状態があまり良くない物や、有名ブランドではない物は非常に安い。1000円、500円はざらである。だが状態が悪いと行っても小さなシミや虫食いがあるといった程度である。着るには全然問題ない。ダメージジーンズがおしゃれな時代であるから、袖がほつれているとか、襟がすり切れているということも魅力になりうる。それがたとえば高級ブランドでも1〜2万円台で買える。人気セレクトショップの新品だと1〜2万円は最低価格レベルである。品質を考えると古着のほうが安い。

これらの魅力は服に限らず電気製品でも何でも、なかなか新品を買うことでは味わうことができない。消費者は新品を買うことに飽きているとも言えるだろう。

三浦展(あつし)

1958年新潟県上越市出身。82年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。著書に『下流社会』『永続孤独社会』『首都圏大予測』『都心集中の真実』『第四の消費』『ファスト風土化する日本』『家族と幸福の戦後史』など多数。

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