【三浦展の社会時評】 第8回「推し活」

推し活消費というものも近年注目されるようになった。歌舞伎役者や宝塚などのファンの活動など、推し活と言えるものは昔からあったと思う。特定の芸者・ホステスに入れあげて毎週通い詰め、欲しい着物や指輪をプレゼントするなんていうのもまあ推し活であろう。究極の推し活は芸者や遊女を身請けすることだろうか。相撲の谷町もそうであろう。推し活ではなく後援会というのだろうが。

が、今はもっと多くの世代に多様な推し活が生まれている。坂道系アイドルはもちろん、ジャニーズ系、俳優、お笑い、スポーツ選手、地下アイドル、AV女優、風俗嬢、メイド、あるいは実在しないアニメキャラクター、ゆるキャラなどなどである。

推し活は、一種の愛情行動、あるいは偏愛行動だろうと思う。自分が誰かを推す(愛す、応援する)とともに、推しているタレントからの愛を求める。推し活や応援消費は自分が応援すると同時に相手から応援されるという相互感覚が大事なのではないか。推している相手のほうがよろこんでくれているかどうかが大事なのだ。芸者に入れあげる場合は、男の側の気持ちの一方的な押しつけであって、金で人を買うのに過ぎない面がある。相撲の谷町だってお金を支援してくれるところが重要だ。それと比べると現代の推し活は、相手がよろこぶ顔が見たいという心理が強そうである。

それから何よりグッズがたくさん販売されているのが現代の推し活の特徴だ。一般人はグッズがなければ推しの対象にお金をかけてあげることができない。だから、コンサートに行く、芝居を見に行く以外にTシャツなどのさまざまなグッズを買うわけである。 これは神社やお寺もそうであって、神様は見えないからお札を買うとかお守りを買う。お寺ではミニチュアの仏像を買うとか絵はがきを買う。神仏を推しているわけではないがビジネスモデルとしては似ている。消費というのは現代の一種の宗教であるから、推し活消費と宗教行動は似てくるのだろう。

そこで私は推し活の実態を解明すべく、2023年1月にアンケートを実施した。過去5年間に推し活に使った金額を聞いたのである。そしてそれを様々な要素から集計分析した。すると推し活心理の深層には孤独感があることがわかった。そして孤独感をベースに消費を分析すると、孤独であるほど消費が増える分野が数多くある。孤独が消費を増やすのだ。

男女年齢別に見ると推し活関連消費は20代の女性が中心である。5年間で5万円以上使う人が23%。20万円以上だけでも5%いる。女性は30代も20万円以上使う人が5%おり、なかには好きなジャニーズ系アイドルの出るすべてのコンサートを追っかけて年間50万円以上使う人もいるらしい。20代男性も少なくはないが、20万円以上が3%程度であり、5万円以上が合計で17%である。

20〜30代を未婚既婚別に集計してみると、結果は、女性は未婚のほうが推し活消費が多い。 20〜30代について家族類型別に見ると、20代のパラサイトシングルの男女で推し活消費が多く、特に女性で非常に多い。

次いで20代の単独世帯も推し活消費が多いが、やはり女性の単独世帯で多い。 男性は30代・40代のパラサイトシングルで推し活消費が多いが、それと同じくらい30代既婚で子どものいる人でも推し活消費をしており、30代パラサイトシングルよりも消費額が多い。これは既婚男性のほうが年収が多いからであろう。

それから、結婚したからこそアイドルの価値がわかるという面もあるかもしれない。なにしろアイドルはファンに文句を言わない。ただただ感謝をする。あれを買えとも言わない。言わないのに、言わないからこそ、ファンはアイドルのグッズを買って貢いでしまうのである。

私が数年前仕事であった30歳くらいの男性も、坂道系の推し活をしているが、既婚なのでそれを配偶者に言えず、推し活用の部屋を内緒で借りていると話していた。

このように未婚者、パラサイトシングル、単独世帯が推し活消費をする背景には孤独感がある。現在孤独を感じるかどうか別に推し活消費額を集計すると、やはり孤独を感じる人の方が消費額が多い。また孤独の背景には恋愛の問題がある。20−30代について恋人有無別に推し活消費額を見ると、女性は明らかに恋人がいないと推し活消費が増えるのだ。

 

三浦展(あつし)

1958年新潟県上越市出身。82年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。著書に『下流社会』『永続孤独社会』『首都圏大予測』『都心集中の真実』『第四の消費』『ファスト風土化する日本』『家族と幸福の戦後史』など多数。

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