【市町村長リレーコラム】第6回 新潟県村上市 高橋邦芳市長 ——復旧・復興、誇りある「まち」、国内最大級の屋内スケートボード施設の意味、持続すること

新潟県内30市町村の首長に、地域での取り組みや課題、首長としての想いなどをコラムで寄稿いただき、次に寄稿いただく首長を指名いただく「市町村長リレーコラム」。

第6回は、新潟県南魚沼市の林茂男市長からバトンをつないでいただいた、新潟県村上市の高橋邦芳市長のコラムをお届けします。

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今、目の前にある令和4年8月豪雨災害からの復旧・復興に最大限の力を注ぎながら,自らを育てたふるさとで誇りをもって人生を送り続けることができるためのまちづくりの方向性、次の時代の担い手となる次世代への継承、そうした市政運営を進める上において最も大切にしている「心構え」についてお伝えすることとした。

先ずは、現在総力を上げて取り組む「令和4年8月豪雨からの復旧・復興」への取り組みからお伝えしたい。

 

令和4年8月3日からの大雨による災害からの復旧・復興

令和4年8月3日からの大雨被害 小岩内集落(提供 村上市)

令和4年8月3日から降り始めた降雨帯は、本市の北から南に向かってゆっくりと移動し、翌4日未明から一級河川荒川に沿う形で線状降水帯となって停滞し、大雨特別警報が大雨警報に切り替わるまでの間に時間雨量最大152ミリ、総雨量589ミリ(4日午前0時から午前5時までの5時間で500ミリを観測)といったこれまでに経験したことのない大雨が本市を襲った。

市内全域で土砂災害、浸水災害が発生し、56年前の羽越水害(昭和42年8月)に匹敵する甚大な被害となり、自衛隊の災害派遣により市民の生命を守るための懸命の救助活動を進める中、災害救助法に加え、激甚災害の適用を受け、国・県、各市町村をはじめ全国から寄せられた支援により発災から8ヶ月が経過する中、本格的な復旧・復興への取り組みを加速させている。

被災した市民の生活再建を一刻も早く確実なものとしなければならないと市は総力を上げて取り組む中、令和5年度においても県をはじめ県内各自治体からの職員の応援をいただいている。心の底から感謝。

令和4年8月3日からの大雨被害 災害ボランティアセンター(提供 村上市)

災害に向き合い刻々と変化する現状に対する決断の連続、ベストの決断であったかと振り返る時間の連続。市民の安全を最優先に対応したか。収集した情報は常に最新のものであったか。その情報の分析から導き出した決定は最善のものであったか。市の職員も多く被災する中、市の機能が十分対応できていたか。検証すべき事項は多い。

事前の準備の大切さを改めて痛感している。本格的な復旧・復興を進める今、課せられた責任は大きい。

 

誇りある「まち」で暮らすということ

村上城跡石垣(提供 村上市)

本市は古来から伝統と文化を紡ぎ、先人の恵みに感謝しながら今日まで歴史を重ねてきた城下町である。広大な農地を豊かに潤す山々から流れ出す水は滔々と流れる恵み多い河川を経て50キロにも及ぶ海岸から日本海に注ぐ豊かな土地を有す。

名勝天然記念物笹川流れ(提供 村上市)

そこに暮らす市民は、多くの伝統と風致を大切に受け継ぎ伝承しそれぞれの土地で誇りをもって暮らしてきた。

当然、そこで暮らす子ども達もそうした環境の中で先人達の取り組みを見聞しながら成長している。いずれ担い手となる若い命がそうした本市の伝統と歴史を色濃く受け継ぎ成長していく姿はとても頼もしく、嬉しく感じた経験をたくさんもっている。

このことが、今を生きる私たちが次の世代に受け継ぐ豊かで魅力的なふるさとを創る担い手としての自らの選択を大きく支えているように感じている。

第3次村上市総合計画(提供 村上市)

広大な市域(1,174平方キロメートル)を有する本市は、それぞれの地域が特色のある魅力を有している。広大であるが故にその特色は多様である。その魅力を存分に磨き上げ発信していく取り組みは多岐にわたる。これは本市の伸びしろとして最高のメリットとして捉えている。

現在進める第3次村上市総合計画(R4年からR8)では、こうした本市のもつ優位性を存分に発揮して本市のポテンシャルを最大限にまで高める施策を随所に用意した。現在2年次を迎え、より具体的・本格的に施策を展開するタイミングを迎えている。

他方、均衡あるまちづくりを進める上においてメリットであるそれぞれの地域の多様性は時として困難な課題に直面する場合もあるのが実情。道路や河川といったインフラの維持整備に加え、医療福祉資源の充足、経済(資本)活動の集積度合いの違いによって一律の行政サービスを用意するだけではその効果が予定するサービスになり得ないことが往々にして存在する。

また、各世代、地域ごとに求められる行政ニーズが異なっていることを感じる瞬間がある。

元気に遊ぶ保育園児(提供 村上市)

一人ひとりの満足を得るための施策の難しさを感じる瞬間でもある。しかしながらそうした一人ひとりのニーズや生活を支えること、そこに個々の満足を実現しようとする取り組みは私たちに課せられた使命であると確信している。そのためにも我々は最大限の努力を惜しまない。常に振り返り検証を行いより効果のある施策へと施策そのものの磨き上げを進めることを常に意識している。

一人ひとりの個の満足、地域の満足、市民の満足をすべて満たすために誇りある「まち」で暮らしているんだと感じることのできる日常があることは重要。一日でも多くそうした満足を感じることのできる「まち」であるための不断の取り組みが大切。

 

国内最大級の屋内スケートボード施設の意味

村上市スケートパーク(提供 村上市)

スノーボード・スケートボードの二刀流「平野歩夢」選手がいる。小さい頃から平野3兄弟としてスケートボードを通じて世界を目指す3兄弟の姿は多くのメディアで紹介され、今なお多くのアーカイブ映像が世界で視聴されている。ライブ映像や最近の大会での活躍もYouTubeなどで視聴できるので検索してみると彼らの現在の活躍を確認することができる。

スケートボードを日本のスポーツ文化として確立させるための取り組みは、黎明期からいっさいブレることなくただひとつの道をまっしぐらに走り続ける平野家の絆と力が成し得たもの。見事の一言。

その道はこれから先も続く。平野歩夢選手の3大会連続でのオリンピックメダル獲得。昨年はついに冬季オリンピック北京大会で金メダルを獲得し世界の頂点。その同じオリンピック大会で平野海祝選手は世界を驚愕させた。

一番上の兄平野英樹選手は「村上市スケートパーク」でスケートボードを始めた子ども達や未来のメダリストを目指す選手の育成にあたり、本市の目指す「スケートボードの聖地」を完成させるため力を注いでいただいている。

村上市スケートパーク体験会の様子(提供 村上市)

平野兄弟の姿は、本市の子ども達はもちろん全国から多くの次の平野兄弟を目指す子ども達を本市へと向かわせる結果となっている。

現在、我が国のNTC(ナショナル・トレーニング・センター)として日本代表選手を中心としたスケートボード強化選手の拠点施設としての役割を担い、我が国のスケートボード競技の普及促進に努めるとともに、国内チームはもちろん海外チームからのキャンプ地としてオファーを受け、我が国のスケートボード競技やスポーツカルチャーの発信拠点としてその力を大きく示している。

国内外のトップチームの来市は地元はもちろん「村上市スケートパーク」に訪れる多くの人に刺激を与えてくれている。

全国スケートボード施設連絡協議会設立総会(提供 村上市)

アジアのスケートボード界のトップに立つ日本ではスケートボード人口が急激に増加し、急速にスケートボード施設の整備とともにスポーツカルチャーとしてのスタンドポイントを確かなものとしている。こうした動きは全国の各都市自治体でのスケートボード施設の整備を推進し、子ども達を中心に各世代がスケートボードをスタートさせる環境が整いつつある。

そうした中、昨年令和4年11月には国内の16都市自治体(富山県富山市・新潟県南魚沼市・村上市…)と連携する仕組みを創設し日本のスケートボードカルチャーを基礎自治体から全国規模で推進していく体制を実現した。前述の多様な魅力をメリットとして捉え、これをまちづくりに活かしていく仕組みに他ならない。

各都市自治体のもつ多様な魅力を国レベルで連携して発信していくチャンスである。これはそれぞれの都市自治体を活性化させる上において非常に大きなポイントとなる。

スケートボード競技大会は本来屋外での開催がルール(屋内施設でもレギュレーションを満たせば公式大会の開催も可能)。本市のスケートパークは屋内施設であるからこそ、天候に左右されず日常的にさまざまなニーズでの利用を可能としている。初心者からトップアスリートまで多様なレベルに対応可能であることが「スケートボードの聖地」としての拠点である所以。

 

持続するということ

3年超に及ぶ新型コロナウイルス感染症との闘いは私たちに多くの影響と困難をもたらした。市民生活はもちろん地域の経済活動にも大きな影響をもたらし事業継続が懸念される中、国をはじめとした各都市自治体、とりわけ行政職員の知恵と工夫により今日まで持ち堪えてきたというのがひとつの実感。医療従事者・福祉従事者を中心としたエッセンシャルワーカーへの感謝と敬意は忘れてはならない。

他方、この3年超のコロナ禍がもたらした教訓を我々は次の時代への糧とするため大いに学ばなければならない。現在本市では食糧安全保障・エネルギー安全保障の観点からの取り組みを進めている。パンデミックによる世界規模での社会情勢の変化が瞬時に我が国の社会や経済に強力に影響を及ぼす時代に我々は生きている。

今の私たちがこの時代を生き抜くことはもちろん、次の時代を担う世代に自信をもって受け継ぐことのできる社会を実現することも重要なポイントである。

森林林産業を中心としたサプライチェーンの構築(提供 村上市)

本市では令和3年に「ゼロ・カーボンシティ」を表明し地球規模での温暖化対策を進める取り組みとして森林林産業を中心としたサプライチェーンの構築による循環型の地域社会(森林資源循環ネットワーク)を実現するための取り組みを加速させている。加えて、食糧安全保障の観点から地域で生産し地域で消費するといった社会の変動に左右されにくい食糧供給体制の向上への取り組みを加速させている。

とりわけエネルギーについては発電エネルギー資源の多くを海外からの輸入に依存する我が国においては最重要の課題である。令和4年12月に我が県を襲った豪雪災害により本市においても多くの集落が停電し孤立するといった事態に見舞われた。平時においては電気やガスといったエネルギーが何のストレスもなく届けられているといった日常から一転、生命を脅かす恐れさえ生じさせかねない事態に緊張が走った。

現在、村上市・胎内市沖での洋上風力発電事業が進められている。事業の実施主体となる事業者の公募を経て今年度以降本格的に進められることとなる。将来におけるエネルギーバランスはもちろん、2050年のカーボンニュートラルを実現するための重要な取り組みであることは言うまでもない。

加えて、事業スタートから3分の1世紀にも及ぶ大規模プロジェクトとなる洋上風力発電事業が本市にもたらす影響は無限の可能性を秘めている。電力の送電配電といった系統を含め新たなエネルギーの道が本市を中心に構築されることは、関連する産業を中心として高規格自動車道(日本海沿岸東北自動車道(現在整備事業実施中))や日本海航路を中心とした物流や人流に大きな変革をもたらすことは間違いない。

ここは地域をより活性化する好機として存分に準備し連携していくことが重要となる。そのためにも今後決定する事業者との信頼関係を構築できるかが最も重要なポイントとなる。特に市民との信頼関係は最も重要なポイントであることは言うまでもない。

サスティナブルな地域であり続けるための取り組みは最重要の施策となる。

 

心構え

新採用職員に採用辞令を交付したのち次の詩を贈っている。

「うちわたす 県司に もの申す もとの心を 忘らすなゆめ」

良寛和尚が村上藩三条役所の群吏であった村上藩士三宅相馬が三条役所での任務を終え村上藩に帰藩する際、贈った詩(うた)と聞いている。常に民とともにあることを望み、決して為政者や武士(群吏・官吏)との交わりを良(よし)としなかった良寛和尚が唯一武士である三宅相馬に贈ったものであると聞いている。

厳しい身分制度社会の中にあって「民」の幸福な生活を確かなものとするための藩政を担うものとして決して忘れてはならない事柄。それは、政策の担い手として「民」の安全で安心な生活を実現させようと志したそのときの純粋な領民を慈しむという心、初心を決して忘れることなく官吏としての役割を果たしていくということの大切さを別れの際に贈ったものであろう。

今、私たちは、市民の安全安心な生活、そして一人ひとりの望む幸せを確かなものとするため市政運営に全力で取り組んでいる。しかしながら、いつ襲ってくるかも予測できない自然災害などの猛威に翻弄されるリスクと向き合い、各世代一人ひとりの幸福感を満足させるということの難しさも痛感している。

そうした中にあって、市民の声に耳を傾け、公正かつ透明な政策決定により市民が望む方向に行政運営を進めることで市民の利益を守り、市民からの信頼を獲得し、一人ひとりの満足度を高めて行くことができると確信している。そこにはこれまで以上に笑顔のあふれる誇れる地域社会が実現しているはずである。

良寛和尚の「もとの心を 忘らすなゆめ」を座右に日々奮闘あるのみ。

新潟県村上市の高橋邦芳市長

【市町村長プロフィール】

村上市長高橋邦芳(たかはしくによし)。新潟県村上市出身。1959年9月11日生まれ。1978年、新潟県立村上高等学校卒業。1980年、村上市・岩船郡町村伝染病院組合に採用後、1982年、岩船地域広域事務組合に勤務。2008年、市町村合併により岩船地域広域事務組合解散、4月より村上市役所入所。2015年6月、村上市長選挙に無所属で出馬し当選。現在、村上市長2期目を務める。影響を受けた人は、鳥居三十郎、スティーブ・ジョブズ。影響を受けた本は、論語と算盤(渋沢栄一)。趣味は、読書、映画・音楽鑑賞。

 

◎次にリレーする市町村長(高橋市長からのコメント)

三条市の滝沢亮市長を紹介します。彼の現状把握・分析能力、対応の速さには目を見張るものがあります。人口減少・少子高齢化社会をはじめ、予測困難に発生する諸課題に対し、スピーディーに対応する政策の実施、その姿勢には学ぶべきところが多くあります。昨年は、三条祭り大名行列200周年記念にご招待いただきました。今後も、三条市と村上市の繋がりを大切にしていきたいと思います。

 

村上市ホームページ

市町村長リレーコラムについて

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