【人気記事】(再掲載)米山隆一の永田町を斬る「『野党の国会議員は1円たりとも予算を獲得できない』、『野党系知事の時は新潟県にアゲインストの風が吹き荒れていた』は本当か?」

「著名人コラム」から好評だった記事をピックアップして、ゴールデンウィーク中に再掲載します。(編集部)

 

自民党の北信越比例ブロック選出の国会議員が、来るべき新潟知事選挙において立候補を予定している花角現知事の応援演説で、「それまでの知事のことにあまり言及したくありませんが、花角県知事誕生までの新潟県には『アゲインストの風』が吹き荒れておりました。」と発言しました。この議員は、昨年の選挙演説では、対立候補の新潟4区選出の野党議員を名指しして「〇〇議員は私が市長を務めていた任期中、1円たりとも、1円たりとも、1円たりとも予算を獲得しなかったのです。」と演説しました。少々聞き捨てならない演説ですが、そもそもこれは本当でしょうか?

事実を確かめるために、公開されている平成26年~令和2年の新潟県の歳入のデータで見てみましょう(平成26年~28年:泉田(自民)、平成29年~30年:米山(野党)、令和1年~令和2年:花角(自民))。

確かに私の後花角知事になった2019年、国庫補助金、所謂「補助金」は1674億円から1789億円に100億円ほど増えていますが(2020年はコロナ補助金が一気に増えているので参考になりません)、趨勢として何か大差があるわけではありません。

一方で、これと同時に、2019年予算では県債発行による収入も3018億円から3304億円に300億円増えています。これは、発行済み県債の利払いの増加に加えて、国からの補助金をもらう場合、最大補助額は総事業費の20~50%が上限であるため必ず県の負担が生じ、それを賄うために県債の発行を増やさなければならなかったためと考えられます。

要するに、花角知事に代わったことによる補助金の増加は、将来において財政が悪化するリスクを負っても(県債の発行を増やしても)、国からの補助金を得て公共事業を増やすという花角知事の方針によったものに過ぎず、特段国の件に対する態度が変わった事によるものとは思えないのです。またこの国庫補助金の中には当然のことながら新潟4区で行われる事業についての補助金も含まれており、「野党の国会議員は1円たりとも予算を獲得できない」も到底事実とは言えません。

これだけであれば、この、自民党の北信越比例ブロック選出の国会議員は、「票の為に事実でない事を言う議員」という事に尽きますが、この議員の上記の発言は、それだけでは済まない問題を孕みます。

何せこの自民党議員は、公の場で堂々と、「野党の国会議員は1円たりとも予算を獲得できない」、「野党系知事の時は新潟県にアゲインストの風が吹き荒れていた」と言っているのであり、それはつまり、「自民党は、野党議員を選出した選挙区には、露骨に予算で嫌がらせをする」「自民党は、野党の知事を選出した県には、露骨に予算で嫌がらせをする」逆に言うと、「自民党は、与党議員を選出した選挙区には、露骨に予算で依怙贔屓をする」「自民党は、与党の知事を選出した県には、露骨に予算で依怙贔屓をする」という事を、何も恥ずかしいと思わず、公言したという事だからです。

この様に、嫌がらせと依怙贔屓を公言する議員や、その様な議員に支えられている知事は、国政・県政においても、自分の気に入らない人には嫌がらせをして、自分の親しい人には依怙贔屓をする政治を実行するのではないかと、思わざるを得ません。

こんなことを言うと、「それなら依怙贔屓してもらう為に、自民党の議員、自民党の知事に投票しよう」と思うかもしれませんが、私はそううまくはいかないと思います。自民党の議員は衆参合わせて372人もいます。知事は色分けが必ずしも簡単ではありませんが、47都道府県中野党系は数えるほどで、殆どは与党系です。自民党の予算配分が、好き嫌いによる嫌がらせと依怙贔屓で決まっているなら、北信越比例ブロック選出のこの国会議員が並みいる先輩自民党議員を差し置いて予算配分を受けられる可能性は極めて低く、新潟4区は相対的に冷遇されるという事でしょう。花角知事も同様で、3選、4選が珍しくない多数の与党系知事を押しのけて、花角知事だけが依怙贔屓を受けられる可能性は高くなく、新潟県もまた相対的に冷遇されるという事を意味します。

つまり自民党政権が本当に嫌がらせと依怙贔屓で予算を決定するなら、新潟4区も新潟県も冷遇され続けるのであり、そもそもその様な政治は打破すべきだという事になります。

私は、短いなりに努めた県知事経験において、国の行政は基本的には法律に則って適正に運営されており、与党系の知事だろうと野党系の知事だろうと、全うな話をすれば全うに聞いてくれたと思っています。また、それ以前の問題として、国の補助金と言うのは全国一律の決まった制度に過ぎず、それに従っていたら県を発展させられるというものではありません。県を発展させられるか否かは、国の制度に従って国の補助金を取るか否かによるのではなく、新潟県独自の状況に合わせて、新潟県独自の工夫をこらした適切な行政を実行できるかどうかによって決まると思います。

新潟県はこれから、知事選挙、参議院選挙と重要な選挙が続きます。有権者の皆さんはぜひ、「票の為に事実でないことを言う議員」の言に惑わされず、「国の決めた制度に従って、国の補助金を取れるかどうか」(そもそも上述の通り、事実としては野党でも与党でも大差はありませんが)などと言う志の低い基準ではなく、「新潟県独自の状況に合わせて、新潟県独自の工夫をこらした適切な行政を実行できるか」という、議員、知事として当然持っているべき志の高い基準で選んでいただきたいと思います。

 

米山隆一

1967年新潟県生まれ、1986年灘高等学校を卒業、1992年東京大学医学部を卒業。1999年独立行政法人放射線医学総合研究所勤務、2003年ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究、2005年東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講、2011年医療法人社団太陽会理事長就任、2011年弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士に就任、2016年新潟県知事選挙に当選、2021年衆議院議員選挙に新潟5区から当選。1992年医師免許を取得、1997年司法試験に合格、2003年医学博士号を取得( 論題「 Radial Sampling を用いた高速 MRI 撮像法の開発」)

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