「あと15年で労働力人口は約8割に。地域外人材の副業・兼業で新潟の未来を開く」(特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長 サイボウズ株式会社勤務 竹内義晴)
『地方消滅 – 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書)という本を読んでいます。これは、2014年に刊行された本で、岩手県知事や総務大臣を歴任された増田寛也さんのご著書です。
「地方消滅」というタイトルに、「そんな大げさな……」という印象を抱く方もいるかもしれません。また、多くの人が「人口が減っている」ことは知っていても、「具体的に何が起きるのか?」「どんなことが困るのか?」は、さほど気にしたことがないのではないでしょうか。というよりも、私自身、この本を読むまではそれに近い認識でした。
でも、いまは「そろそろ、人口減少をまじめに考え、対策していかないと、新潟の企業は今後、労働力不足に直面し相当厳しい状態になるな」という危機感を抱いています。
この記事では、人口減少の背景や現状について触れ、その解決策の1つとして、都市部人材の副業・兼業について取り上げます。
データにみる「人口減少の実態」
まず、日本の人口減少をデータでみていきます。2023年2月28日に厚生労働省が発表した2022年の自然増減数(速報値)は78万人のマイナスで、過去最大の減少となりました。佐賀県や山梨県の人口が80万人弱ですから、1年で1つの県がなくなるぐらいの規模で、人口が減少していることになります。
新潟県の人口は、2022年の時点で約215万人、前年と比較すると約2万5000人減少しました。若者を中心に人口がごそっと流出し、UIターンでは取り戻せていません。全国の都道府県で見ると、人口増減率では下から8位で最悪のクラスです。
人口減少は今後も続くと予測されており、このままでは、地域経済や社会インフラに大きな影響を与える恐れがあります。
2040年まで「老年人口は増え、生産年齢人口は減少し続ける」
人口減少が与える地域経済への影響の中で、もっとも大きいのが労働力人口の減少でしょう。いま、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)が急激に減少しています。令和4年版の情報通信白書によれば、生産年齢人口のピークは1995年の約8,716万人です。一方、2020年では約7,509万にまで減少しています。つまり、25年間の間に、日本の生産活動を担う人口が約1,200万人も減少したわけです。
しかし、これは序章に過ぎません。3年後の2025年には、現在の「団塊の世代」とよばれる、日本で人口がもっとも多い世代が75歳以上になります。そのため、医療や介護といった費用が一層増す分岐点となります。国民の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会になるのが「2025年問題」です。
次に訪れるのが、「2040年問題」です。2040年の生産年齢人口の推計は5,978万人、2025年の生産年齢人口は7,170万人ですから、わずか15年で約1200万人減少、現在の約8割になることになります。一言でまとめると、2040年までは「老年人口は増え、生産年齢人口は減少し続ける」わけです。
人口というのは、何らかの対策をしたからといって、急に増えるわけではありません。特に、生産年齢人口は15歳以上の人口のため、仮に、これから人口が増えたとしても、生産年齢人口に加わる15年間の人口減少は、すでに決定事項です。
このように、人口が急激に減少する中、今後、労働者不足は、新潟の企業にとって深刻な課題になるとみています。企業の経済活動が阻害されるだけでなく、成長やイノベーションも妨げられています。さらに、地元の若者が離れてしまうことで、地域社会やコミュニティそのものが衰退し、さらなる若者の流出を招く……という負のスパイラルに陥りかねません。
地域外人材の副業・兼業の可能性
人口減少の課題については、政府や自治体は様々な施策を講じています。たとえば、近年では、少子化対策として保育料や医療費、給食費など、子育て支援の充実などの施策があります。また、若者の地方就職やUIターンを支援する政策、地方移住を促すインセンティブの提供などもあります。
このように、人口減少対策はさまざまな施策が組み合わされるものですが、直近の、企業の人材不足の解決策の1つとして、私は、都市部をはじめ地域外の企業で働く人材が、副業・兼業の形で地方企業に関わるというアイデアに注目しています。
リモートワークの普及により、地理的な制約を越えて多様な業種で働くことが可能になりました。これにより、地方企業は都市部の人材と関わりを持つことができるようになりました。
一方で、都市部の労働者は、地方の企業での副業や兼業を通じて新たなキャリアパスを模索することが可能になります。また、第2、第3のキャリアの選択肢になります。
このような働き方の拡大は、地方企業の労働力不足を緩和し、地方経済の活性化に寄与するとともに、労働者のキャリア選択肢を広げるというメリットがあります。
副業・兼業による企業のメリットや、労働者のメリットについて、私は自身の体験として実感しています。私は新潟でNPO法人しごとのみらいを経営しながら、東京のIT企業サイボウズでも働いていますが、一労働者としてはキャリアの幅が広がりましたし、人のつながりも増えました。また、人のつながりは仕事にも直結するため、ビジネスの機会も広がりました。
うちの業界では無理?
ここまでのお話を読んで、こう思われた方もいらっしゃるかもしれません。「うちが欲しいのは手足を動かしてくれる人であって、リモートワークとか、そういうんじゃないんだよ」「1日2日、関わってもらったって、何も変わらないよ」と。
そのお気持ち、とてもよくわかります。
確かに、新潟で求められているのは、土木・観光・輸送・飲食・介護など、手足を動かす仕事が多いですよね。リモートでできるような仕事ではなく。
しかし、もしも今、人が行っている仕事の中で、ITや機械化・自動化をすることで省力化できたら、今いる人数でまわせるかもしれません。また、経理をはじめ、今までだったら「人が関わっていないと無理」だと思っていた仕事も、デジタル化がかなり進んでいます。その道に詳しい人がみたら、「それなら、こうすれば簡単できますよ」といったちょっとした助言で、案外簡単に解決できるかもしれません。
今すぐには「無理だ」と思うことでも、「業務を変えていく」ことで、近い将来解決できる可能性を作り出していきませんか?
また、最初は副業・兼業のような関わりでも、関係性が構築でき、「新潟でも働けそうだな」と思ったら、移住につながりフルタイムで雇用できるかもしれません。実際、私の知人の中には、最初は地域おこし協力隊のような関わりから地域に入り、結果的に移住した知人が何人もいます。
つまり、副業・兼業での関わりは、地域外の人たちとの「仕事を通じたご縁づくり」でもあるのです。
課題を変革の機会に
人口が急激に減少しているいま、今までならギリギリ採用できていた人材も、今後は、「そもそも、人がいない」という状況になっていきます。労働力不足は、今後、ますます大きな課題になっていくでしょう。企業の存続をも左右するかもしれません。
それを見据えた対応が、今、必要なのではないかと思います。
新たな働き方の普及やテクノロジーの進化により、新しい解決策が見えてきています。地域外の人材が副業・兼業という形で地方企業に関わることで、地方企業の労働力不足は緩和され、地方経済の活性化に寄与する可能性があります。
私はこの、新しい働き方に期待を寄せつつ、これが、仕組みとして実現できるよう、できる範囲から取り組みをはじめていきます。
竹内義晴
特定非営利活動法人しごとのみらい 理事長。「楽しくはたらく人・チームを増やす」が活動のテーマ。コミュニケーションや組織づくりの企業研修・講演に従事している。
2017年よりサイボウズ株式会社 にて複業開始。ブランディングやマーケティングに携わる。複業、2拠点ワーク、テレワークなど、これからの仕事のあり方や働き方を実践している。また、地域をまたいだ多様な働き方の経験から、2020年より一般社団法人妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会 にて、ワーケーションをはじめ地域活性化の事業開発にも携わる。
著書に、『Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)』などがある。