「大の親日国・タイの訪日人数についての考察」 新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩

5月ですね。GW明けの11日から13日まで、新潟ではG7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されます。新潟を舞台に、各国の大臣や総裁にどういう食材が提供されて、日本酒はどの銘柄になるのか、どの場所を訪問するのか、など大いに気になります。多くのメディアが新潟を取材し、世界にその魅力を伝えてもらいたいと思います。私がいる中国地方では、4月22日、23日の両日、G7倉敷労働雇用大臣会合が無事に開催を終え、いよいよ5月19日から21日までG7広島サミットが開催されます。私が局長を務める中国運輸局においては、広島県、広島市などの関係行政機関や事業者等との緊密な連携を図りつつ、交通総量の50%以上の抑制を目指す開催支援、交通、物流、宿泊等における安全の確保、観光の振興を図るため、G7広島サミット対策本部を設置して準備を進めています。G7広島サミットの各行程が滞りなく進み、成功裏に終了することを心から願っています。

さて、前回はJNTO(日本政府観光局)バンコク事務所長として、2010年2月、タイ・バンコクに赴任するまでを書いてみました。今回はその続きを書く予定でしたが、先に当時のタイ訪日市場を振り返ってみたいと思います。タイを訪れると驚きますが、タイは大の親日国です。これは、タイ国民が敬愛するタイ王室と日本の皇室の長年に渡る交流、日本からの経済援助、多くの日本企業のタイ進出、海賊版も含めた日本のマンガやアニメの影響力などの賜物で、バンコクには日本を模したショッピングモールがありますし、日本のものは何でも好きという声も現地でよく聞きました。赴任した頃のタイの訪日市場はじわじわと拡大基調にはありましたが、当時の日本はまだ「一生に一度は行ってみたい国」という位置付けでした。経済発展が著しいタイにおいて、訪日市場は潜在的な可能性が極めて高いと、赴任早々、あらためて意を強くしました。

JNTOバンコク事務所での業務を始めるに当たり、タイの訪日市場の特性を調べたところ、一般的なタイの旅行シーズンのピークは年間で最も暑い4月で、この時期はソンクラン(タイの正月)に当たり、1週間程度の休みとなって、タイ各地で水かけ祭りが行われます。私も頭の真上からジリジリと焼かれるような、この時期の暑さをよく覚えています。4月の前後の3月と5月にも学校の休みがあり、10月の学校休みとともに、ソンクランの時期に次ぐ観光シーズンとなっていました。訪日旅行のピークも同じ時期でした。次に、ツアー形態としては、個人旅行では無く、団体旅行がほとんどであり、企業による報奨旅行(インセンティブ)も盛んでした。

日本で訪問したい地域としては、東京から大阪・京都に至るいわゆるゴールデンルートや、タイの訪日市場がまだ10万人以下の頃から現地で積極的なプロモーション活動を行っていた仙台が人気でした(ちなみに、タイで最初に発行された日本の地域ガイドブックは東京ではなく、仙台です。)。関心がある観光資源については、桜が圧倒的でした。桜は日本のシンボル的なイメージですが、タイで桜は咲きませんし、ちょうど時期的にソンクランと重なります。ソンクランの時期は、日本の広範囲で桜が咲いており、また、春休み後、GW前の閑散期に当たるため、日本でもタイ人観光客を受け入れやすく、多くの桜鑑賞ツアーが催行されていました。その他、体験したい観光資源や食事としては、富士山、雪、寺社仏閣、カニ、寿司、イチゴ、ラーメンなどが挙げられていました。旅行先の競合国は韓国でした。

旅行費用が日本行きと比べて安いほか、音楽・アイドルの韓流ブームはタイでも起きており、訪韓タイ人数が訪日タイ人数を上回っていました。日本の音楽やアイドルのファンも多いのですが、日本の市場の方が大きいため、タイに来てくれません。韓国のアイドルは実際にタイを訪問して、ファンサービスをします。この差は如何ともしがたく、日本からもジャニーズ系に来て欲しいなと切実に思いましたね。私の帰任後には、AKBグループがタイを訪問してくれるようになりました。

このように振り返ってみると、この10年少しでタイの訪日市場が大きく変化していることに気づきます。最近では、タイ人は、波はあるにせよ、年間を通して、北海道から沖縄まで、リピーターとして何度も旅行しています。飛騨高山、白川郷や山形・銀山温泉は人気スポットとなっています。2013年の短期ビザの撤廃やリピーターの増加を反映し、旅行形態の3分の2は個人旅行に変わりました。上記の体験したい観光資源や食事として、温泉や牛肉は入っていませんね。2010年当時、「タイ人には人前で裸になる習慣が無いから、日本の温泉文化は難しい」、「タイでは観音様信仰が盛んで、観音様は牛に乗って出現されるから、牛肉を食べないタイ人は多い」と、観光資源に温泉や牛肉は難しいのではないか、と言われていました。

今では、日本で温泉や牛肉を体験したタイ人の口コミが広がり、温泉も牛肉も日本での楽しみの大きなひとつとなっています。訪問タイ人数を競い合った韓国も、観光資源がソウルに集中してリピーターが増えない、訪日旅行をまねて、桜やイチゴなどを売りにした結果、かえって評価を下げたなどの課題があり、現在の訪韓タイ人数(2018年:約56万人)は訪日タイ人数(同:約113万人)を大きく下回っています。これからも、日本の四季が織りなす季節の変化や繊細な日本の食、そして最先端の文化・技術など、タイ人に愛されることを願いますし、早く新潟や広島を「発見」してくれることを期待しています。

次回は、2010年2月からのタイ・バンコクの政治騒乱に戻ります。

 

タイ・バンコクの政治騒乱の終了直後にJNTOバンコク事務所の裏で撮影

益田浩

昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。

 

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