「無事終わったG7広島サミット」 新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩
無事に終わりましたぁ! ホッとしています。何がかって? 5月19日から21日まで開催されたG7広島サミットです。開催地の広島からも、取りまとめられた「核軍縮に関する広島ビジョン」の内容が不十分であるなど、被爆者の方々を中心に必ずしも肯定的な評価だけではないことも事実ですが、ロシアによるウクライナの侵攻のただ中で、世界最初の被爆地である広島にG7の首脳が集まって、原爆慰霊碑に献花し、広島平和記念資料館を訪問したこと、さらには戦争当事者であり、核の脅威にさらされているゼレンスキー大統領も被爆の実相を目の当たりにしたことは、歴史的な成果だと思います。
中国運輸局では、後述のとおり、サミットのいわゆるサブ(サブスタンス、実質的な中身)に関与することは限られましたが、期間中に首脳等の円滑な移動を可能にするための交通総量の50%以上の抑制に業界団体とともに取り組んだり、JR西日本・広島駅やサミット会場に近い宇品港などで警戒警備の安全総点検を実施するなど、ロジ(ロジスティック、後方支援)では、一定の貢献ができたと思います。なお、サミット会場であるグランドプリンスホテル広島にも、中国運輸局からリエゾンを常時2人派遣しており、随時、サミットの動きに関する情報共有がありました。滅多に無い機会なので、私もリエゾンとしてサミット会場に行きたかったのですが、2交代制だから、とやんわり事務方に断られてしまいました。とても残念です。
サブに関しては、元々、関与が無い予定でしたが、サミットに合わせて、急遽、某国官房長官・交通担当大臣と国土交通省との2国間会談が開催されることとなったため、国土交通省の代表を会場のホテルまで送り、私は会場横の待合室に陣取ったのが、私にとって最もサミットに接近した瞬間となりました。待合室で待機していた際、某国大臣が時間調整のために入室したので、挨拶して雑談していたところ、会談の内容まで踏み込みそうになったので、「その件はあとで私のボスから話をします」と慌てて制したのは笑い話です。会談が無事に終了した後、ホテルロビーにあったサミットの看板前でしっかり記念写真を撮ってきましたよ。
そして、今回のサミットでは、安倍元総理の銃撃事件や和歌山県での爆発物投下事件を受け、テロ対策に万全を期すことが求められました。警備の指揮に当たった広島県警の森元本部長は広島県出身で年次は同期ですが、相当なプレッシャーであったことは容易に想像できます。日本で初めての都市型サミットであり、全国から2万4,000人の警察官が動員されたと聞いていますが、確かに広島市内の至る所で、北海道から沖縄まで、全国から応援で来広した警察官やパトカーを目にしました。サミット前日に広島の繁華街である本通を歩いていると、ちょうど首脳が店舗を訪問したタイミングと重なり、警察官がずらりと並んだ列の前を歩くことになりました。やましいことはしていませんが、何となく居心地が悪かったです。私はサミット期間中、出勤していたため、徒歩やバスで移動中に何度も規制に合いましたが、長時間待たされることは無く、要人の車列が通り過ぎると速やかに規制を解除していたように感じます。それでも、独特の緊張感がありましたね。
そういえば、全国のパトカーの写真が撮れると、全国からパトカーマニアが広島に集結しているとの噂も耳にしました。私も原爆ドームを背にした秋田県警のパトカーを見て、サミットならではの光景だなと感じるとともに、あながち噂も本当かもしれないと思いました。ちなみに、中国運輸局がある合同庁舎の周りは埼玉県警が担当していました。ときどき、埼玉県警の制服を着た警察官に道を尋ねている外国人旅行者の姿も見ましたが、きっと地理不案内でしょうから、双方ともに「お気の毒な」と思ってしまいます。
外国人旅行者と言えば、サミット効果によるインバウンド誘客効果を大いに期待しています。平成28年5月に当時のオバマ・アメリカ大統領が広島を訪問した後、広島を訪問する欧米からの旅行者が急増しました。今回もサミットに合わせて、国際メディアセンターが設置され、多くの海外メディアが今の広島を世界に発信しています。世界遺産である原爆ドームに加え、もうひとつの世界遺産である宮島を首脳が訪問しており、その海上の移動手段として瀬戸内シーラインが運航する「SEA SPICA」(シースピカ)が活用されました。瀬戸内海の多島美とともに、この快適な高速クルーザーも大いに注目されており、今後の観光の目玉になるでしょう。サミットで広島県や中国地方への関心が高まる中、2025年には大阪・関西万博、瀬戸内国際芸術祭、さらには福山市で世界バラ会議が開催されます。中国運輸局では、これらの動きを追い風として、中国地方へのインバウンド誘客を加速する施策を実施していきます。
サミットで提供された食材や日本酒、ワイン、ウィスキー、ソフトドリンク、お土産類など、広島の特産品が取り上げられ、関心を集めています。今後の貴重な観光資源となるため、私ももちろんチェック済みです。報道関係者に配布されたいわゆるサミットバッグには福山市特産のデニムが使われています。実は、福山市はデニム生地の生産量が日本一とのことです。デニムと言えば、岡山県の児島地区や井原地区が有名ですが、このような形で地元の特産品を世界にアピールすることができるのもサミットならではでしょう。戸河内ウィスキーが歓迎レセプションで提供されたことも嬉しいです。地元紙である中国新聞には、東京銀座にある広島県のアンテナショップ「TAU」(タウ)では、物販の売上高がサミット開幕前の週と比べて1.4倍となり、特にもみじ饅頭の売上げが伸びているとの記事が掲載されていました。サミットの開催準備は正直大変でしたし、開催期間中は厳しい規制もかかりました。今後、サミット開催による経済効果を実感する場面が増えることを期待しています。
同じく成功裏に終わったG7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議も気になりますね。次回、少し触れてみたいと思います。
昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。