【三浦展の社会時評】 第15回「空き家をどうするか」

先日埼玉県のある空き家活用事例を取材した。まちづくり関係者が空き家を安く買い取り、それを若い男性3人が住むシェアハウスにして貸している事例である。そういう事例は少なくないが、この埼玉のシェアハウスはひと味違う。

空き家を売る場合、解体して新築を建てることが決まっているなら、不要な家財ごと家を解体して産業廃棄物になる。建物ごと売る場合や貸す場合は、不要な食器、衣服、本、雑貨などの家財はすべて処分して家を空っぽにするはずである。

しかしこの空っぽにするのが大作業である。それが大変で貸しもしないし売りもしない人は多い。

ところが今回取材した埼玉県のシェアハウスは、なんと家財の一切が残置されていて、それをシェアハウスの住人がそのまま使っているのである。食器、衣服、家具、家電などなどすべてである。

貴金属、宝飾品、契約書、印鑑などの貴重品は別として、洗濯機も炊飯器も食器も食器棚も化粧品も布団も衣料品も家具もソファもエアコンも置かれたままだった。貸主が新しく買ったのは電子レンジだけである。

シェアハウスに住むことになった若者は、布団も座布団もそのまま使った。各部屋の照明器具もそのままである。

若者のうち最初に引っ越してきた人は、貸主から残置物はメリカリで売っていいと言われたので、実際メルカリで家具や化粧品や衣服を売って毎月何万円にもなっているという。比較的裕福なご家庭が住まわれていたようで、奥様の古着の中にはフェラガモのスーツもあった。

私の上越市の実家が空き家であるが、残置物を整理するのが一苦労で、まだ完全には終わっていない。食器は昭和レトロ好きな女性二人に差し上げた。その他の食器はちょうど飲食店を開業する若者に上げた。茶道をしていた母の着物と茶碗は茶道を学ぶ女性二人に差し上げた。母の洋服は知り合いの古着屋さんに上げた。母の帽子は私がコミュニティ活動として協力している東京郊外のニュータウンの店で売ってもらうことにした。父の蔵書は部下だった男性がかなり引き取ってくださった。其の他の本はやはり先ほどのニュータウンで売ってもらった。掛け軸や硯は知り合いの古書店に買ってもらった。

つまり基本は知り合いに上げたのであり、売る場合も知り合いの古書店には売っただけである。まとめて業者の処分してもらえば楽だが、大した金にはならないし、親が折角集めたものをゴミのように捨てるのは心が痛む。だから信頼できる知人・友人に上げたのである。

だが、両親が書いて額装した掛け軸は捨てにくい。大量に残っているアルバムは知人・友人がもらってくれるものではないし、私が親の仕事上の写真を見ても意味がないので、最後は捨てることになるだろうが、少しは見てから捨てたいと思う。東京から2ヵ月に1度実家に戻ってこんな作業をしていたので7年がかりでも作業は終わらないのである。

しかし今回埼玉の空き家シェアハウスを見て、こんな貸し方でうまく行くならやってみたいなと思った。
まだ生活できるだけの食器も洗濯機も掃除機も炊飯器も照明器具もエアコンもある。3人くらい若者が住んでも、たまに私が片付けに行ったときに泊まる部屋は残っている。

そんなちょうどよい若者が見つかるのかという疑問を読者が持つだろう。たしかにそうだ。埼玉のシェアハウスは、貸主の知り合いの若者の中から、彼ならうまく行くだろうという人を誘って3人集めたのだそうである。

この点は、私が東京にいるままでは難しい。しかし信頼の置ける誰かに委託することはできるかもしれない。

今の若者はお金がない。非正規雇用も多い。普通の賃貸住宅は正規雇用の堅い仕事の人を住まわせたがる。だがこれだけ非正規雇用が多いと、彼らにも住居は必要である。1人でアパートを借りて家財を買う資金はなくても、家財付きシェアハウスなら安く住める。また、夫婦2人でアパートを借りても、新しいアパートなら家賃は5〜6万円するだろう。

だったら、古いけどきれいに使ってきた家で、家財付きで6万円で借りられるとしたら、お得ではないか。あるいは、何かお店を始めたばかりの若者で、お店の他に在庫を置く部屋が欲しいということもあるだろう。一戸建てを借りれば部屋はたくさんあるから、倉庫代わりにできる部屋もあるはずだ。我が実家は車庫兼倉庫もある。

などなどと考えると私の実家も売らずに貸せるかもしれないと思った。昭和の暮らしがしたい人向きの和室の多い家。茶室、茶道具があるので、茶道をしている方、これから勉強したい方向き。ピアノもあるので音楽関係の方。広めの洋室では毛氈を広げて書道もできる(毛氈も筆もある)ので、書道関係の方。どうでしょう。

三浦展(みうらあつし)

1958年新潟県上越市出身。1982年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。著書に『下流社会』『永続孤独社会』『首都圏大予測』『都心集中の真実』『第四の消費』『ファスト風土化する日本』『家族と幸福の戦後史』など多数。

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