【三浦展の社会時評】 第16回「統一が苦手?」
誰でも1日に1本はペットボトル飲料を飲む時代だ。特にこう猛暑では3本飲む人がいてもおかしくない。
それで気になるのが、飲みおわってからプラスチックの包装を剥がす時だ。ペットボトルとプラスチックであるキャップと包装は分別して捨てるのだが、飲料の種類によって全てと言ってもいいくらい包装の剥がし方が違う。
たいていは包装の上の方に矢印が書いてあって、そこから破く。しかしたまに下から破るものもある。矢印が老眼でも見えやすいものもあれば、とても見にくいものもある。 とても破りやすいものもあれば、破りにくいものもある。包装の厚さもかなり違う。
点線のように切れ目が入ったものもあれば、ないものもある。ハサミで切れ目を入れないと切れないこともある。そうかと思うと紙のようにくしゃくしゃになるものもある。どうして統一しないのだろう。統一してないから破るのが面倒になって、包装をしたまま捨てる人がたくさんいるはずだ。
似たようなことを感じるのが蛇口だ。我々は外出すると、トイレなどでたくさんの蛇口を使う。この蛇口がまた今は複雑だ。
昔みたいにクルクル回せば水が出るというものは、もはやほとんど皆無。レバーを上げたり下げたり、左右に回したり、押したり、ただ手を差し出すと勝手にみずがでたり、まあ、いろいろだ。レバーの形も色々あって、非常に戸惑う。
洗浄トイレのボタンもそうで、どれを押すとどうなるのかがわからない。古い機種はボタンが少ないが新しい高級機種はボタンが多い。しかもデザインをカッコよくしたいのか、字が小さくて見えづらい。会社によって表現も違う。
私の知人に、レストランのトイレでどうしたら水が出るか色々試したがついにわからず、お店の人に聞いたという人すらいる。
蛇口は統一できないのか? トイレはもう少し単純化できないのか?
まだある。東京だと鉄道会社が多い。会社によって鈍行と特急の表現が違う。
中央線は快速と特別快速、その中間に通勤快速。
小田急はと聞かれても思い出せないが、調べたら各駅、通勤準急、準急、通勤急行、急行、快速急行だった。
京王は各駅、快速、区間急行、急行、特急。 統一できないのか?
速い順にA、B、C、Dじゃダメなのか?
その方が外国人観光客も便利だと思うけど。
もう一つ。郵便物。今は定形外の大きめのもので、ゆうパックにするほどではなく大きさのものは、レターパックで送ることが多い。これもネーミングがよくわからない。
一番大きいのがレターパックプラス、次がレターパックライト、小さいのがスマートレターパックである。私はようやくこれを覚えた。
でもおかしいでしょ。プラスというからには、プラスする前の大きさのものがあるはずだ。ライトというからにはヘビーがあるはずだ。そして最小はスモールならわかるがスマートなのだ。スマートは賢いという意味で大きさや重さを表す形容詞ではない。
洋服のサイズがプラス、ライト、スマートではおかしい。 LMSであるはずだ。レターパックもLMSでいいのだ。それがなぜプラス、ライト、スマートなのか?
それと別にゆうメールというのもあるが、「ゆう」は郵便の郵のはずで、メールも英語で郵便だろう。ゆうメールとは「郵郵」と言うのに等しい。元々は書籍小包という名前だったので実に明解であった。それに比べて今は一体何が言いたいのかわからない。
マイナンバーみたいに統一したら問題噴出するのは困るが、ペットボトルの包装の破り方を統一しても、自分のプライバシーが漏れることはあるまい。 実は日本人は統一が苦手、ってこともないだろうし、便利なことは大好きなのに、なぜか不便や理解しにくさを放置することも多いというのは不思議である。
1958年新潟県上越市出身。1982年一橋大学社会学部卒業。(株)パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集室勤務。86年同誌編集長。90年三菱総合研究所入社。99年カルチャースタディーズ研究所設立。消費社会、世代、階層、都市などの研究を踏まえ、時代を予測し、既存の制度を批判し、新しい社会デザインを提案している。著書に『下流社会』『永続孤独社会』『首都圏大予測』『都心集中の真実』『第四の消費』『ファスト風土化する日本』『家族と幸福の戦後史』など多数。