【コラム】「この夏、約500名が乗車したえちごトキめき鉄道のどこへも行かない急行列車」えちごトキめき鉄道 代表取締役社長 鳥塚亮

えちごトキめき鉄道では昭和40年代から活躍する国鉄形の車両を使用した観光急行列車を主として土休日に運転しています。この列車はJR西日本から譲渡していただいた車両を使用し、懐かしい国鉄時代の急行列車のカラーリングを再現しているもので、鉄道ファンには大人気で全国から観光客を呼ぶツールになっています。

通常は急行列車として直江津-市振間を2往復していますが、夏休み期間中は特別列車として、毎週土曜日に列車の中で地元の食材やお酒を楽しめる「納涼列車」を5回。そして「夜行列車」を4回運転いたしました。

同じく人気の観光列車「雪月花」と合わせてこの夏は大好評をいただきましたが、「納涼列車」も「夜行列車」もどちらも直江津発、直江津行。

つまりどこへも行かない列車なのです。

実はこれは観光列車の定義なのですが、普通の列車は「目的地へ行くために乗る列車」ですが、観光列車というのは「乗ることそのものが目的の列車」ですから、直江津から乗車して糸魚川や妙高高原を往復して直江津に戻ってきて「ハイ、お仕舞」でも立派な観光列車です。そして「乗ることそのものが目的」ですから、たくさんの皆様方がこの列車を目的に、上越地域には特段に用事はないけれど、東京や大阪などからやってきたのです。

まず、「納涼列車」ですが、おつまみお弁当に飲み放題のコースでおひとり様6800円。お料理サービスなどは雪月花に比べるとかなり簡易的ではありますが、逆にハードルが低い分若い人たちが多いように見受けられました。直江津を18時過ぎに発車して、糸魚川を往復して20時ごろに直江津に戻ってくるコースですが、直江津-糸魚川往復の運賃、急行指定席料金だけで4000円近い金額になりますから、豪華お料理弁当に飲み放題付きで6800円という価格は、かなりお値打ちということもあって、この夏は7月29日から毎週土曜日に運転して、合計290名様にご乗車いただきました。

直江津-糸魚川間の日本海ひすいラインは超大トンネルが続く難所区間ですが、そこに土曜日の夕方列車を一往復させるだけで290名の方が、「目的地へ行くことなく」ご乗車されたことになります。

さて、もう一つの「夜行列車」の方ですが、こちらは皆様ご存じの寝台車ではなく、昭和の座席夜行。かつては直江津から上野や大阪方面へ数多くの夜行列車が走っていましたが、えちごトキめき鉄道で企画した夜行列車は「目的地へ行くために乗る列車」ではなく、「乗ることそのものが目的の列車」ですから、こちらも直江津発の直江津行。固い座席に一晩乗り続ける「体験」をする列車です。

夜の9時過ぎに直江津を発車して妙高高原までの妙高はねうまラインを往復。深夜の直江津駅で夜食タイムを設け、その後、日本海ひすいラインを市振駅まで往復して早朝4時50分に直江津駅に戻ります。
列車はそのまま妙高高原行きの始発列車となって直江津-妙高高原間をさらに一往復。一晩で約280㎞を走りますが、直江津発、直江津行ですからどこにも行きません。一晩かけて列車の中で過ごす苦行のような列車です。

乗車料金は座席によって変わりますが、4人掛けの1ボックスを一人で占有するプランは1人18000円。ロングシートのプランは11000円。そして若者に夜行列車を体験してもらうための学割シートは6000円という価格構成になっていますが、8月中の土曜日に4回走りまして、合計197名様にご乗車いただきました。

1列車当たり約50名様にご乗車いただいたことになりますが、別の見方をすると、毎週土曜の晩に一晩50名の人たちが列車の中で寝たことになります。このところトキめき鉄道沿線では観光客の増加で週末にはホテルが取りづらくなってきているようですが、4人掛け1ボックスを一人で占有するプランは18000円。ホテルのシングルルームなら8000円程度でバストイレ付の部屋に泊まれますから、体験を買うということが如何に付加価値が付いているかということがご理解いただけると思います。

もちろん、納涼列車も夜行列車も乗客の皆様のほとんどは新潟県外からいらしていただいてますので、地域への経済波及効果も大きいと考えますが、雪月花と違って特に若い皆様方が多い観光急行列車では、新潟県上越地域でのいろいろな体験が若者たちの思い出に残るわけですから、そういう皆様方が東京や大阪から、新潟贔屓、上越推しになっていただければ、鉄道というものが単なる地域輸送だけでなく、この地域の未来に少しでも貢献できると私は考えています。

えちごトキめき鉄道で「納涼列車」や「夜行列車」が走っていることなど、新潟県民の多くはご存じないと思いますが、「どこにも行かない急行列車」にこの夏は約500名の方が乗車されたというご報告でした。

直江津には本物のD51(デゴイチ)が動く「直江津D51レールパーク」もありますので、新潟県民の皆様方もぜひ直江津にいらしていただければと思います。

鳥塚亮(あきら)

1960年東京都生まれ。明治大学商学部を卒業後、外資系航空会社に就職。2009年に公募でいすみ鉄道社長に就任。2019年、公募でえちごトキめき鉄道の社長に就任。鉄道に関する著書も2冊ある。

 

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