【コラム】「日本政府観光局バンコク事務所長の頃~東日本大震災からの巻き返しへ」新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩(再掲載)

掲載日 2023年10月2日
最終更新 2023年10月8日

今週の独自記事などを日曜日に再掲載いたします。(編集部)

 

はじめに

そろそろ新米の季節になりますね。新潟県への赴任中から、我が家の食卓は新潟米です。それまでは関東某県の価格が安いお米を食べていましたが、一度、新潟のお米の味を覚えてしまうと、もう他には変えられません。

胃袋を新潟に捕まれてしまったということでしょう。かつて、新潟県庁から県の東京事務所に異動した職員に「東京の生活はどう?」と聞いたところ、「生活は楽しいですが、ランチのご飯が美味しくなくて食べられません」と言っていたのを思い出します。新潟県では、普段の生活でも、東京では考えられない美味しいご飯を食べていますからね。私は、新米の季節になると、まず、約800年の歴史がある農家らしい燕市の友人に実家の分も含めて注文し、食べ尽くした後は、ふるさと納税で、新潟県の自治体に新潟の新しいお米「新之助」を頼むことが多いです。

私は新之助のガウンを着て、プロモーション活動をしていたので、新之助に頑張って欲しいです。ふるさと納税では、新潟県のルレクチェ、サクランボ、八色スイカ、おけさ柿、ぶどう、枝豆、餅も届いていますよ。年末に向けて、また新潟県内で新たな返礼品を探してみようと思います。日本酒、金属製品、お菓子、麺類あたりにレパートリーを広げていきたいです。

 

訪日旅行復活の兆し

前回は2011年3月11日の東日本大震災により、タイにおいて訪日旅行の気運がいったん消滅したところまで触れました。

当初、東日本では余震が続き、東京電力管内で計画停電が実施され、観光施設の閉鎖も続いている状況では、私もしばらく訪日旅行は難しいだろうと覚悟を決めていました。しかしながら、驚いたことに、早くも3月下旬にかけて、関西や九州方面を目的地として、タイの日系企業により従業員向けのインセンティブ旅行が催行されたとの情報を耳にし、また、日本からの観光ミッション団がバンコクで開催した訪日セミナーには、多くのタイ旅行事業者が参加して、予想以上の反響がありました。

そして、タイから先陣を切って、4月30日深夜発の東京観光3泊5日ツアーがH.I.Sバンコク支店とタイの旅行事業者であるトラベルデザインエア社により催行されます。ツアーの出発に際して、深夜のバンコク・スワンナプーム空港で、御礼を込めた出発セレモニーを開催し、日本でもツアーの到着に合わせて、歓迎行事が行われました。出発セレモニーの際、小さなお子様連れのタイ人女性に「心配はありませんか」と尋ねたところ、「東京は大丈夫よ」との返事があり、大変心強く、心の中で手を合わせたことを今でもよく覚えています。

2011年4月30日、バンコク・スワンナプーム空港での東京観光ツアー出発セレモニー

なお、この頃、東京への訪日ツアー第1号はタイから出したいと、バンコク事務所を挙げて取り組んでいましたが、結果的にシンガポールからの東京観光ツアーと同じ日に日本着となったのは少し残念でした。

大規模訪日視察団の派遣

東日本大震災に際して、スラム街でも復興支援のための募金が行われるなど、もともと大の親日国であるタイでは、震災の前、日本は海外の旅行先として大きなウェイトを占めており、タイ旅行事業者にとっても重要な収入源となっていました。

震災後、タイの訪日旅行取扱事業者は、軒並み、訪日旅行の取扱いを休止しましたが、代替旅行先と期待された欧米豪は査証の発給が厳しく、また渡航コストも高いため、訪日旅行の需要を肩代わりするのは難しいことが徐々に明らかとなり、JNTOバンコク事務所には、タイ旅行事業者から「訪日旅行が早期に復活しないと死活問題になる」との切実な相談が寄せられるようになりました。

東京への訪日ツアー催行と前後しますが、4月15日には東京ディズニーランドが時間短縮ながらも再開するなど、日本で徐々に平常への復帰の動きが本格化してきたことから、バンコク事務所では、タイからのアウトバウンド事業者(日本に送客する事業者)を中心とするタイ観光サービス協会(TTAA::Thai Travel Agents Association)とは、訪日旅行の復活をより強固なものとするため、タイの旅行事業者やメディアによる大規模訪日視察団を編成して、日本を訪れ、その様子をタイに伝えたい旨、具体的な打合せを重ねていきました。

そして、4月下旬には東日本大震災の余震も徐々に沈静化してきたことも踏まえ、GW明けの5月中旬、東北に九州や関西より近く、タイからの訪日旅行の拠点である東京・富士箱根をあえて訪問先として、TTAA会長をはじめとするタイ旅行事業者、メディアなど総勢150人強の訪問団による視察を実施することとしました。

この訪問団は、世界的に見ても、大震災後、初めての大型視察旅行となり、日本でも大きく報道されています。今でも鮮明に記憶していますが、訪問団の日本への到着は夜で雨が降っており、バスで成田空港から富士箱根に向かう道中も外の景色が暗くてよく見えず、バスの車内も決して明るい雰囲気ではありませんでした。私も大丈夫かな、どうなるのかな、と内心不安を抱えたまま、富士河口湖の温泉旅館に泊りました。

翌日は、早朝から外の歓声で目が覚めました。雨も上がり、見事な快晴で、目の前に富士山の雄大な景色が広がっていたのです。タイ人だけでなく、私の気持ちも一気に晴れ、変わらない富士山の美しさに涙が出てきました。そして、東京に戻ると、いつのもように多くの人で混雑し、東京ディズニーランドにも日本人が詰めかけていました。これらの様子はタイのメディアでも大きく報道されています。懸念されていた余震も起こらず、この訪日視察は大成功に終わり、タイからの訪日旅行が素早く回復したことに大きく貢献できたと思います。

タイから大規模訪日視察団とともに富士山の前にて

なお、タイからの大規模訪日視察団の受入れは無償では無く、タイの旅行事業者等は有償で参加をしています。もちろん、通常の料金設定だと参加者が期待できないため、受入れ側の旅館・ホテル、観光施設には、価格交渉をして相当値引きをしてもらったようです(伝聞なのは、訪日視察ツアーの造成は、タイの旅行事業者が担当したためです。)。

日本到着後、仲介した日本の大手旅行事業者からは、久しぶりに実現した大型訪日旅行にもかかわらず、全然利益が出ないと、随分、苦情を言われました。大震災から間もない当時、訪日旅行は敬遠され、控えめに言っても宿泊施設も観光施設も随分余裕がある状況で、むしろ日本側で全額費用を負担して招待しても良いのにな、この人達には長い目で見るという発想は無いのか、と呆れて悲しくなったことも思い出しました。今回はここまでにします。

 

益田浩

昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。

 

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【コラム】「日本政府観光局バンコク事務所長のころ~東日本大震災の発生」 新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩

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