【コラム】「日本政府観光局バンコク事務所長の頃 ~東日本大震災からの回復が見えた先に」新潟県元副知事・中国運輸局長 益田浩

はじめに

関西では、阪神タイガースとオリックスバファローズによる日本シリーズが開催しています。我が広島東洋カープはセリーグで2位となり、クライマックスシリーズのファーストステージで横浜DeNAベイスターズを下したものの、ファイナルステージで阪神に敗れてしまいました。

阪神との初戦では、新潟県魚沼市出身の韮澤雄也選手がスタメンに抜擢されましたが、守備が乱れて不本意な結果となっています。この経験を糧に来シーズンの飛躍を期待します。

私の野球シーズンは終わりましたが、広島ではいまだ野球の話題で盛り上がっています。10月23日から、広島カープとコラボした広島版図柄入りナンバープレートが交付開始となりました。同日から全国10地域で新たに図柄入りナンバープレートを発行しますが、同日までの申込件数は広島が1位となっています。

福山市など広島県東部では、既に平成30年10月から、広島カープとコラボした図柄入りナンバープレートが交付されており、これで広島県全県において広島カープナンバーを車に取付けることが可能となりました。広島版と福山版の違いが分かりますか。

右上のカープ坊やが広島版は打者、福山版は投手ですね。その他にも、カープ坊やの表情、赤の色味、ボールの縫い目が最近の仕様に合わせてあるそうです。

ちなみに、新潟県での地方版図柄入りナンバープレートは、以下の3種類です。

新潟県に赴任する前、国土交通省自動車局自動車情報課長として、図柄入りナンバープレートの具体的な制度設計を担当していました。新潟版の朱鷺と萬代橋、長岡版の長岡花火、上越版の桜や上杉謙信公など、それぞれの地域の特徴を活かした図柄を目にすると嬉しく思います。

そうそう、野球に関しては、新潟に大きなニュースがありました。来季から日本プロフェッショナル野球組織(NPB)の二軍リーグ戦への新潟アルビレックスベースボールクラブの参加が内定し、名称は「オイシックス新潟アルビレックスベースボールクラブ」になるとのことです。

今月下旬に開催される予定のNPBオーナー会議で、二軍リーグへの参加が正式決定されるそうです。来シーズンが楽しみです。

 

訪日旅行に対する風向きが徐々に変化

前回は、2011年5月中旬に催行したタイからの大規模訪日使節団の成功まで取り上げました。

ちょうどこの時期、タイでは7月に国民議会の総選挙が予定されており、反政府勢力であるタクシン派の巻き返しが予想されたことから(実際、総選挙では、タクシン元首相の妹のインラック氏を党首とするタイ貢献党が過半数を制して勝利し、8月8日、インラック氏が首相に就任している。)、タイのマスコミの関心も東日本大震災からタイの総選挙へと移り、タイメディアにおける震災関係の報道が目に見えて減少してきました。

このタイミングをとらえ、日本政府観光局(JNTO)バンコク事務所では、観光庁ビジット・ジャパン緊急事業予算を活用して、訪日旅行商品のメディア広告掲載を大規模に支援することを決定しました。

この緊急事業予算では10割補助とし、旅行事業者の負担がなかったことから、7月、8月とタイ字一般紙や旅行雑誌などに大量の訪日旅行商品の広告が掲載され、訪日旅行に対する安心感の醸成に大きく貢献することとなりました。

当時、私も在バンコクの日本人駐在員から、「最近、新聞に訪日旅行商品があふれているが、もう日本に旅行しても大丈夫か」と問われ、その効果を実感しています。

早くも前年同月比でプラス転換に

この時期には、旅行フェアも精力的に活用しました。団体旅行を主に取り扱うTTAA(タイ観光サービス協会)主催のTITF旅行フェア(Thai International Travel Fair)が8月中旬に開催され、日本から参加した仙台・東北観光推進機構をはじめ、11団体18ブースからなる日本ブースにおける訪日観光プロモーションも効果的であり、同旅行フェア会場での訪日旅行商品の売上もほぼ前年並みまで回復しました。

さらに、タイで伸びつつあった個人旅行向けの旅行フェアも、8月下旬にバンコクで「FITフェスティバル」として開催し、各ブースとも、連日、大盛況でした。このFITフェスティバルには日本からドン・キホーテ社が初出展していますが、当時、同社で担当していた中村好明氏の著書「ドン・キホーテ流 観光立国への挑戦」の中で、JNTOや私の様子が触れられていますので、引用させていただきます。

「実際にブースを出展してみたところ、その時のタイのFITフェスティバルは大盛況だった。所員の皆さんはもちろん、JNTOの益田所長も、浴衣姿のまだ幼い娘さんとともに、連日、日本政府のブースの最前面に立って日本パビリオン全体を盛り上げており、まさに家族ぐるみで訪日市場復興への取り組みをしていた。公的機関の方々の中にも、本気で震災復興に取り組んでいる人々がいることをこの時実感した。」(P.168)

かなり恥ずかしいですが、この文章を目にしたときは頑張って良かったと、素直に喜びました。

9月には、在タイ日本大使館の協力を得て、タイ字一般紙において、日本国大使と私が共同で訪日呼びかけを行い、また、在タイ日系企業などのスポンサーを得て、東日本大震災後に訪日したタイ人が撮影した写真を対象とする「Visit Japan フォトコンテスト ~笑顔の日本に行ってきました~」をWEB展開するなど、幅広い主体との連携により矢継ぎ早に施策を打っています。今振り返っても、必死でしたね。

その結果、9月には、単月で前年同月の訪日タイ人数を超えてプラス(7.2%増)に転換するなど、他の海外市場に先駆けて顕著な回復を達成することができました。ただし、このまま順調に回復基調に乗りました、とならないのがタイ市場です。ここからは次回とします。

おまけ

先に仙台・東北観光推進機構に言及しましたが、タイにおける仙台の人気は絶大です。まだタイの訪日市場の規模が小さく、日本からマーケットとして十分認知されていなかった頃から、当時の仙台市長のリーダーシップにより、タイ市場に対して、周辺の地域も含めて、仙台の魅力を精力的に売り込んでいました。

その結果、仙台は東北エリアの代名詞となり、一時期、タイの旅行事業者は「日本で桜を観ることができるのは仙台だけ」と思い込むほどで、タイで最初に発行されたタイ語版の日本の地域別ガイドブックは、東京ではなく仙台を中心とする東北エリアでした。

東日本大震災が発生しなければ、タイからの直行便は札幌より先に仙台に就航したと思います。それだけに、大震災後のTITF旅行フェアの際、仙台からの参加者とタイ旅行事業者が抱き合って泣いている姿には、私ももらい泣きを禁じ得ませんでした。素晴らしいご縁ですね。

益田浩

昭和61年3月私立修道高等学校卒業、平成3年3月東京大学法学部卒業。国家公務員Ⅰ種(法律)合格。平成3年4月運輸省採用。平成9年7月運輸省大臣官房人事課付(英国ケンブリッジ大学留学国際関係論)、平成27年7月自動車局自動車情報課長、28年6月大臣官房参事官(税制担当)などを経て、29年7月新潟県副知事。令和2年7月内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)、内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局企画・推進統括官、令和4年6月国土交通省中国運輸局長。

 

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