米山隆一の永田町を斬る「お粗末で恐ろしい維新のヒトラー騒動」

東京、大阪を始め全国で連日新型コロナの患者数が過去最高を記録する中で、ここ2週間永田町では、降ってわいたような「ヒトラー騒動」が巻き起こっていました。

事の発端は1月21日に立憲民主党の菅元総理が「橋下氏をはじめ・・・弁舌の巧みさでは・・・当時のヒトラーを思い起こす」と書いたTWに、松井大阪市長・維新代表が「菅さん、あなた何を言っているのか?分ってるんですか!民間人と我々をヒットラー呼ばわりとは、誹謗中傷を超えて侮辱ですよね。・・・正式に抗議いたします。」と噛みついた事です。

これに即座に「民間人」であるはずの橋下氏が「ヒトラーに重ね合わせる批判は国際的には御法度」と呼応し、吉村大阪府知事は「国際法上あり得ない」と批判のトーンをあげ、最後には維新の馬場代表が立憲の泉代表に「菅氏の投稿は・・・国会議員はもとより、人として到底許されるものではない」という抗議文を出すところまでエスカレートしました。

すると様々なメディもこの問題を取り上げ、人気女性アナウンサーが「どんな例えでも使ってはいけない」と維新の主張に同調し、津田塾大学の萱野教授に至っては「菅元総理の発言は、処罰の対象となる可能性が非常に高い」とまで言い切りました。

騒動が拡大すると、今度は自民党の世耕氏が「政治家をヒトラーに、政治団体をナチスに例えるのは最大の侮辱だ・・・絶対に他党の政治家に対して行うべきではない」と批判し、国民民主党の榛葉氏が「国際的には完全に即アウトだ」とするなど、本来無関係な与野党の政治家までが参戦し、永田町は菅元首相批判一色になりました。

ところが現代はSNS時代、菅元総理への批判に対する反論が、私を含め野党側から次々と沸き起こりました。「ヒトラーに例えて批判する事は国際的に御法度(橋下氏)」と言う事実はないし、英語の記事を読む習慣がある人なら、頻繁とは言わないまでも時折政治家をHitlerやNaziに例えて批判する例を目にしていたからです。

さらに「ヒトラー批判に反論する」側がネット上で検索したところ、自民党・麻生氏の「ヒトラーの動機は正しい」発言や、亡くなられた石原氏の「橋下氏は若い頃のヒトラー」発言を筆頭に、自民党の谷垣氏、西田氏が橋下氏をヒトラーになぞられて批判どころか、ニエト・メキシコ大統領がトランプ氏を、バイデン米大統領がTed Cruz上院議員を、ジョンソン英首相がEUを、ヒトラー/ナチスに例えて批判していた例が次々と見つけ出された上、他ならぬ橋下氏自身が、民主党をナチスに例えて批判していたことが発見され、SNS上で紹介されました。

その結果菅元首相への「ヒトラー」批判は急速にトーンダウンし、維新の抗議も馬場代表が議員会館の隣室である菅氏の事務所にマスコミを引き連れて抗議文を手渡しに行ったものの「謝罪の必要はない。帰ってください。」といわれてすごすご帰るというお粗末な結果に終わってしまいました。

この一見馬鹿馬鹿しい空騒ぎはしかし、現在の日本の空恐ろしい政治状況を如実に表すものだと、私は思います。「ヒトラーに例える事」は、勿論辛辣で時に無礼ですから、例えられた維新が怒って抗議すること自体は当然です。しかし、これも当然ながらその抗議は、あくまで事実に基づいて行われるべきですし、抗議された側にも再反論が認められるべきです。ところが今回の騒動では、一時とはいえ維新側が掲げた「ヒトラーに例えて批判することは国際的に御法度で人として許されない」の様な明らかに事実に反する言説が、全く検証されないまま、あたかも真実かのようにメディアで流布され、菅元首相は「一発アウト」で反論すら許されないような雰囲気が作りあげられました。

しかもその状況を利用して、自らが「ナチス」発言を繰り返してきた自民党側から「ヒトラーに例える事は、絶対に他党の政治家に対して行うべきではない」という批判がなされたことは、事実や論理と無関係に、この機に乗じて政敵の吊し上げようとする動きに他なりませんでした。

実のところこういった、デマと大衆扇動による理不尽な政敵の吊し上げが繰り返され、その標的になることを恐れて、過激で声の大きいものの主張に誰も反論できなくなっていたことこそが、民主的なワイマール憲法を持っていたはずの第一次大戦後のドイツにおいて、ヒトラー・ナチスが勃興した際に起ったことなのです。

今回の維新の「ヒトラー騒動」は、まさに、日本が当時のドイツのような危機に陥る瀬戸際にあることを示したものだと私は思います。今回の永田町の空騒ぎが、日本全体が第一次大戦後のドイツで起った悲劇に巻き込まれる序章とならないよう、私たちは心しなければならないと思います。

 

 

米山隆一
1967年新潟県生まれ、1986年灘高等学校を卒業、1992年東京大学医学部を卒業。1999年独立行政法人放射線医学総合研究所勤務、2003年ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究、2005年東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講、2011年医療法人社団太陽会理事長就任、2011年弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士に就任、2016年新潟県知事選挙に当選、2021年衆議院議員選挙に新潟5区から当選。1992年医師免許を取得、1997年司法試験に合格、2003年医学博士号を取得( 論題「 Radial Sampling を用いた高速 MRI 撮像法の開発」)

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